吉報?1
軟禁状態であったけど扱いはお客様。
なのでチヤホヤはされていたけどやっぱり人の家では気を使う。
カンバーレンドの騎士に送られてアリアたちはエルダン家に帰ってきた。
結果を見るなら暗殺計画は止められてケルフィリア教に痛手を与えられた。
ついでにエオソートという回帰前にはいなかったケルフィリア教に対抗するための協力者まで得られた。
大成功である。
ただカンバーレンドに抗議すると意気込む男たちを宥めるのには苦労した。
酷いことされなかった?
こんなに痩せちゃって。
なんてディージャンやユーラなんかは言ってチヤホヤしてくれるけど痩せることなんてない。
むしろたくさん食べさせてもらった。
「カインとはどうでしたか?」
「楽しくやっているようです」
アリアは自室でベッドに寝転んでいた。
自分の家だし誰に見られるわけでもないのではしたなくダラける。
カールソンがアリアに弁解している横でシェカルテとカインも会話をしていた。
アリアとも話したがっていたけど時間がなくてあまり話せなかった。
カインは先生に厳しく指導を受けながらも楽しくやっているようであった。
アリアを守るんだという強い目標もあるので必死に鍛錬に食らいついている。
周りの騎士もカインの面倒を見てくれるしカールソンも兄のようにカインのことを気にかけてくれているらしい。
「アリアお嬢様、改めてありがとうございます」
「なんですの、改まって」
「全部感謝しております」
アリアがいなかったら何もなかった。
カインの命も助からなかっただろうし、治った後アリアはカインの目標となって、それを達成するための環境まで与えてくれた。
感謝せずにはいられない。
「……感謝しているなら誠心誠意仕えなさい。
あなたも私の敵がどんなものか分かったでしょう?」
メリンダと話すたびにシェカルテを外したりアリアか行動するのに言い訳を考えるのも面倒だ。
この際だからシェカルテにも聖印騎士団のことを伝えてケルフィリア教を追っていることを伝えた。
それでようやくシェカルテにもアリアの不思議な行動のわけが理解できた。
時として未来でも分かっているように行動することがあって不可解なことはあるけれどアリアが巨悪と戦おうとしていることは分かった。
何がアリアをそんなに変えたのかシェカルテも疑問に思う。
しかし大切なのはアリアが変わったキッカケではない。
今使えるべき主人には大きな恩があり、やろうとしていることには大義がある。
エルダンで起きたこと、カンバーレンドで起きたことを考えるとケルフィリア教は危険な組織である。
正義感に溢れるシェカルテでなくてもやらねばならないと思わされた。
「私の出来る限りを尽くします」
何も持たず、何もできない少女だったアリアはもうどこにもいない。
けれど真に仕えるべき主君を見つけたような気持ちにシェカルテはなっていた。
「まあ……命かけさせることはしないから安心なさい」
命は自分のものだ。
命令でシェカルテが死ぬようなことはさせるつもりはなかった。
「お嬢様〜メリンダ様がお呼びですよ〜」
真面目な空気を切り裂いて間伸びするような声のスーシャウが部屋に入ってきた。
「オバ様が?
今参りますわ」
「スーシャウ、あなたはベッドメイキングをお願いするわ」
「分かりました!」
メリンダと話すならスーシャウよりもシェカルテが同行した方がいい。
シェカルテの方が先輩なのでスーシャウは大人しくシェカルテの命令を聞く。
アリアはシェカルテを伴ってメリンダのところに向かう。
「失礼いたします。
お呼びだとお聞きしましたわ」
アリアがメリンダの部屋に入るとすでにクインによってお茶の準備がされていた。
暗殺事件でアリアの戦いを見て以来クインの態度も少し変わった。
一枚壁を隔てたような距離を感じさせる雰囲気があったのだけど少し柔らかくなった。
どこかただの令嬢の暇つぶしだと思っていたのだけど暗殺しようとしたケルフィリア教をためらいなく切り捨てたことで見直したのだ。
本物の覚悟を持っていると認めた。
今ではアリアのことを仲間に相応しいかと疑ったことを恥じてすらいた。
「ああ、色々知らせておきたいことがあってね」
「嬉しい知らせだと良いのですが」
「基本的にはいい知らせだよ。
アリアの働きによって暗殺計画が止められたこと聖印騎士団のお偉方もお喜びさ。
正式な団員になる試験も受けられるかもしれない」
今現在アリアの立場としては聖印騎士団の協力者となり、正式な団員ではない。
仲間にするのに相応しい能力や資質、考えなどを勘案して入団のためのテストを受けて合格すれば聖印騎士団となれる。
メリンダの推薦でも入団テストを受けさせるかの検討は行われていたけれど今回の暗殺計画の阻止を受けて話が大きく前進しそうであった。
「それは良かったですわ」
「またいつか正式に連絡があるだろうね。
私が帰るまでに正式に団員になれればいいんだけどね」
メリンダにも夫がいて家がある。
いつまでもエルダンにはいられない。
その前にアリアが聖印騎士団となって支援を受けられるようになれればいいのにと考えていた。