妻と息子が仲良くなっているような1
「改めて妻を救ってくれて感謝している。
それなのにこのように閉じ込めることになってしまって申し訳ない」
「いえ、このような事件になってしまった以上ご協力は惜しみません」
カールソンのお誘いもあってギオイルやエオソートも含めたカンバーレンド家のみんなと食事を共にすることになったアリアとメリンダ。
ギオイルが謝罪と感謝を口にしてメリンダが答える。
恩人閉じ止めるじゃねーよと思わなくもないけれど大きな事件ほど慎重を要し、アリアたちの安全にも気を使わねばならない。
アリアたちもそれに一定の理解は示す。
エルダンだってビスソラダの事件の時は色々動いたのでカンバーレンドもやらねばならないことは多い。
特に今回は多くのお客を呼んでのイベントでの出来事なので下手なことは出来なかった。
「バレそうになったからと暗殺まで試みるとは思いもしませんでした。
それにまさか妻の方まで狙うとは……」
「あなた」
「……そうだな、食事中にする話でもないかもしれない」
あの事件をきっかけにしてカンバーレンド家に潜むケルフィリア教は見つけ出された。
何人か失踪して現在探しているところであるが見つけられるかは難しいところである。
多数の兵士を抱えるのでいかに潜入するのが厳しいカンバーレンドでも兵士に扮したスパイはいたのである。
メイドにもいたので家中にも何人かケルフィリア教がいたりもした。
これで他の家にも影響が広がればいいのにとアリアは思う。
他の家全てで暗殺なんてことしていられないだろうからバレたら逃げるしかない。
エルダンとカンバーレンドのことを教訓にしてくれる家がどれだけあるだろうか。
きっとそんなに多くないのだろうなとため息をつきたい気分になる。
「それにしてもアリアお嬢様は本当にお作法が美しくあられるな。
私も見習われねばならないな」
話題を変えようと目をつけたのはアリアについてだった。
良い先生もついたのだし礼儀作法を美しく見せても何らおかしくなくなった。
ある程度礼儀作法のレベルが上がると綺麗に保ってやっている方が楽なまでになる。
カールソンも貴族の子息なので礼儀作法はしっかりと出来ている方であるがアリアはその所作に美しさすらある。
思わず感心してしまう。
「良い先生がいらっしゃるのですね」
「はい、エオソート様。
ファノーラ・エンバートン公爵夫人にお教えいただいております」
「エンバートン夫人に?
あら……あの方は気に入らない子は教えないなんて……でもそれほどできれば気に入らないことなんてありませんね」
ギオイルなんかはファノーラがどんな先生なのか知らないけれどエオソートは知っていた。
教え方が上手いが一切妥協しない人で上達しなかったり教えられる側としての気構えがない人には決して教えない礼儀作法の先生として一流の女性である。
しかしアリアのレベルで出来るならエオソートでも自分が教えたくなる。
アリアも優秀だし先生も優秀ならこのように出来ていても何ら不思議じゃないと納得する。
「容姿も良く礼儀作法も良い娘か……ゴラック殿が羨ましいな。
愛されている理由が分かるよ」
息子がダメなんてことではない。
でも娘がいる人が娘はいいだなんて自慢するものだから少し羨ましくなってしまうのはしょうがないことである。
「あら、なんならアリアお嬢様に娘になって貰えばいいじゃない」
「グフっ!」
エオソートが笑顔でした爆弾発言にカールソンが顔を赤くして飲んでいたスープを吹き出しかけた。
何も娘が欲しいなら産むという選択肢のみではない。
可愛い娘を引き込む手段がないこともない。
「お、お母様!」
「ほほほ、何も結婚なんて言ってないのよ?
養子をとったっていいんですもの」
カールソンが何を言うんだと文句を言おうとしたけど一枚上手なのはエオソートの方。
息子がいるなら結婚して娘が増えるというのは当然の手段であるがそれに限った話ではない。
養子を取ることも立派な方法である。
貴族にとっては養子を取ることはそれなりにあることである。
子供がいなくて養子を取ることもあるし社会貢献の一環で引き取ることも時にはある。
カンバーレンドはカールソン1人しか跡取りがいないので養子を取ってもおかしくはない。
またそういった後継者問題にならないように女の子の養子を取ることも考えられるのである。
アリアは正確にはまだゴラックの養子ではない。
ゴラックは保護者であるがそうした手続きまでは行っていなかったのである。
エオソートはアリアを調べたのでそれを知っていた。
すごい遠回しな言い方で難しいけれどおそらく養子の話もアリアが望むならカンバーレンドとして迎えてもいいということなのである。
「そ、それはダメです!」
カールソンがエオソートの視線の先にアリアがいることを察して焦る。
養子に迎えてしまったらアリアとは兄妹になってしまう。
それも悪くないかもと一瞬だけ思ったけれどなんだかずっと兄妹であることは嫌だったのだ。
焦るカールソンを見てエオソートは楽しそうに微笑む。