和解3
「前に言ったことだけど、オーラが扱えるからとかじゃなくて、オーラが扱えるからではあるんだけど……」
「何がおっしゃりたいんですの?」
「何が言いたいかって言うと……君が想像しているようなことを言いたかったんじゃないんだ。
…………オーラユーザーは孤独だ」
会話を聞いていてメリンダにもちょっと色々聞きたいことはあるけどここはアリアとカールソンの会話なので黙って聞いている。
「才能があるともてはやされ、周りのみんなはオーラユーザーを持ち上げるけど同時にオーラユーザーのことを怖がっている」
一握りの者に与えられた才能であるオーラ。
大きな力を与えてくれるオーラは人々の羨望の的であるが同じく畏怖の対象でもある。
オーラユーザーが味方である時は心強いのだけど一度敵になるとこれほど厄介なことはない。
単に刃の向いている方向の違いでしかない。
そのために人はオーラユーザーをもてはやして機嫌を取る。
しかしそれは心からの賞賛ではなく敵になりたくない心理も働いているのだ。
カールソンも大人への過渡期にある。
他人が貼り付けた薄い偽りの笑顔に気づいてしまうことがある。
対等に剣を習う友がいてもオーラが使える者と使えない者でも差が出てくる。
結局最後にはオーラを使えば全てが終わると心無い言葉を言われた経験もあった。
故にオーラユーザーは他者に理解されないオーラユーザーであるための悩みがあった。
オーラユーザーの悩みはオーラユーザーにしか分からない。
だからカールソンはアリアを引き込もうとした。
オーラユーザーである苦しみを分かっているので同じような目にあわせたくなかった。
同時にオーラユーザーとしての悩みも共に分かち合えるかもしれないと考えていた。
だけどアリアはオーラユーザーであることを隠そうとしていた。
どうにかして引き止めたい、何かしら縁を繋ぎたいと思って出た言葉が婚約者としてアリアを引き込む言葉だった。
カールソンも自身がそうしたところでも人気があることを知っていた。
普通の女性ならば喜んでくれるだろう、そう思っていた。
しかしアリアの反応は真逆だった。
婚姻を道具としてオーラユーザーであるアリアを手元に留め置こうとしている卑劣な相手にカールソンは見られてしまったのである。
「だから……結婚してくれとかじゃなくて、本当は……友達になりたかった……だけなんだ」
感情が高まりポロリとカールソンの目から涙がこぼれた。
落ち着いて見えていても所詮はまだ子供な部分が大きい。
女性に対する経験が少なくて咄嗟に出た言葉がアリアにとって最悪の答えであったのだ。
アリアも自分の勘違いに気づいた。
カールソンは何も本気でアリアを嫁にしようとしていたのではなかった。
オーラユーザーという重たい共通点を分かち合える相手が欲しかった。
「……そうだったのですね」
エオソートはなぜかアリアがカールソンにあまり良い印象を抱いていなさそうなことを察していた。
そして何をしたのかと問いただして、いきなり婚約者になれだなんて怒られても当然だと優しく伝えた。
アリアも間違っていたがカールソンも自分の発言の過ちをしっかりと理解した。
「ごめんなさい。
出来るなら許してほしい」
「……許します」
アリアはカールソンに近づくとハンカチを取り出して涙を拭いてあげる。
カールソンが悪い。
悪いのだけど回帰前のことを思い出して瞬間的にカッとなってしまい、最後までカールソンの話を聞かなかったのはアリアだ。
まあ、少しだけアリアも悪い。
嫁に来いなんて言うのなら願い下げであるが友達になりたいというのならカールソンは素晴らしい人である。
ちょっとした謝罪の意味も込めて涙を拭いて、手にハンカチを握らせる。
「洗って、手紙にでも添えて返してくださいまし」
「じゃ、じゃあ!」
「勘違いはありましたけど……お友達になりましょう」
ニッコリと微笑むアリアにカールソンは顔を赤らめた。
また手紙でも送ってくれとそれとなく伝えるアリアのやり方はお淑やかで上手い。
「ただもう勘違いでもなさそう、だけどねぇ?」
「流石に私も同意します」
その様子を見ていたメリンダはカラカラと笑う。
初めこそ勘違いだったのかもしれないけど今はもうその勘違いにカールソンが追いついているような気がした。
カールソンは悪い女に騙された。
一切振り向いてくれないアリアを追いかけるうちに勘違いが勘違いじゃなくなった。
メリンダの意見にクインも面白そうだと目を細めるようにしながら同意した。
「ふっ……でもどうするのかね?
やっぱり実は……なんて言い出すのは難しそうだ」
「ですがアリア様も直接言わねば気づかなそうですよ?」
「あっちの謎の美少年もアリアのことお姉様、なんて呼んでいたしね」
「それにエルダン家の皆様方が……許すとも思えません」
クインの頭にはゴラックを始めとしてディージャンとユーラがアリアに近づく悪い虫を追い払おうとしている想像が浮かんでいた。
最近本当にアリアが中心となっている。
生半可な男などアリアに近づかせてもらえない。
「ふふふっ、そうだね。
あの子のガードも、その周りのガードも固い。
どうなるのか、ちょっとだけ楽しみだよ」
「アリアお嬢様は何か苦手なものとかありますか?
ありましたらシェフに言っておきますので」
最初の泣きそうな表情はどこへやら。
カールソンは笑顔でアリアに苦手なものはないかと聞いている。
やはり魔性の女。
目を離せなくなっている時点で自分もその魔性にやられているのかもしれないとメリンダは密かに思っていた。