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疑いの狩猟祭6

「お嬢様?」


 お手洗いに行くと言うので付いてきた護衛のレンドンとヒュージャーは急に立ち止まったアリアを見て首を傾げる。


「どうかなさいましたか?」


 2人の声が遠くに聞こえる。

 何かを見逃している気がしてアリアは思考の波の中に潜った。


 暗殺計画。

 家中を揺らしてケルフィリア教を逃すか、あるいはよりもっと深く忍び込ませるつもり。


 ケルフィリア教の炙り出し作戦。

 エルダン家に起こったことをかんがみてカンバーレンド家でも家の中を見直すことにした。


 しかしその作戦は何故だか漏れてしまっていた。

 そこから作戦のことを聞けるような立場にいる人にスパイがいると思われる。


 回帰前アリアはギオイルの暗殺未遂について聞いたことはなかった。

 単に耳にしたことがない可能性もあるけれどケルフィリア教に対して疑いが出て行動を起こすぐらいだから回帰前でも似たようなことがあってもおかしくはない。


 なのに噂好きの間の話でも聞いたことがなかった。

 ギオイルは妻であるエオソートを愛している。


 だけどエオソートは体調が悪そうでそれを隠している。

 ギオイルの暗殺。


 何故なのかそれが腑に落ちなくてモヤリとしていて気持ちが悪い。

 少し考え方を変えてみよう。


 アリアがケルフィリア教だとしたら。

 どう近づく。


 ギオイルのガードは固い。

 情報を引き出すことも難しくてとてもじゃないがケルフィリア教であることを隠して接近することは不可能である。


 ならどうするか。


「な、なんだ!」


 突如として悲鳴が響き渡った。


「お嬢様!」


 アリアはお茶会の会場に走った。


「アリア!」


「オバ様!」


「何がありましたの!」


「魔物が現れたんだよ!


 あんたも逃げな!」


 会場に行ってみるとてんやわんやの大騒ぎである。

 護衛の騎士たちが集まっている方に目を向けると森から魔物が出てきていた。


 人よりもはるかに大きな黒い魔物が叫び声を上げながら暴れている。


「……なぜこちらに魔物が……」


「アリア、何してるんだい!


 早くここから……」


「そうか……狙いはギオイル様ではないのです!」


「何を……」


「クイン、私と来なさい!


 レンドンとヒュージャーはオバ様を頼みますわ!」


「しかし」


「いいから命令に従いなさい!」


 ピシャリと叱責するアリアの言葉には思わず背筋を伸ばしてしまうような威圧感があった。


「行きますわよ!」


「クイン、行っておやり」


「承知しました」


「あ、あの……」


「ほれ、私を避難させておくれ」


 アリアはクインを伴って走り出した。

 追いかけようとしたレンドンとヒュージャーはメリンダがガッチリと掴んで行かせない。


「どちらに向かわれるのですか?」


「エオソート様がお休みなられているテントですわ」


 アリアが向かっているのはエオソートが休憩するために立てられていたテント。

 アリアたちと話した後エオソートはそのテントに引っ込んだまま出てこなくなってしまった。


 外れた予想かもしれない。

 だけど予想が正しかったとしたら意外と筋が通ってしまうことにも気がついた。


 エルダン家でもケルフィリア教はゴラックではなくその妻であるビスソラダに近づいた。

 ギオイルのガードが固く、騎士としても入り込むことが難しいとしたら使用人としてはどうだろうか。


 厳しいことには違いないが騎士よりも自由に動ける。

 ギオイル本人に仕えるのに比べてエオソートに仕えるならギオイルよりも少し審査は緩くはなる。


 女性であるエオソートに仕えるなら女性で能力が高ければ選ばれる可能性は大いにある。

 そしてギオイルはエオソートを愛している。


 後の美談でもこう言われている。

 妻に隠し事1つなかったと。


 ギオイルから漏れたのではなく、ギオイルがエオソートに打ち明けたところから漏れたのだとしたら。

 スパイがいるのはギオイルの側ではなくエオソートの側かもしれない。


 アリアはそう考えたのだ。

 回帰前にエオソートのことを聞かなかった理由として暗殺されたのであれば誰もが口にしなくなる。


 カールソンが回帰前にはケルフィリア教に暗殺されたことも考えればやはり近いところにケルフィリア教はいて、カールソンもケルフィリア教を倒すことに焦っていたのかもしれない。


「お嬢様、こちらを」


 クインはどこからかナイフを取り出してアリアに渡した。


「念のために。


 使うことがなければよいのですが」


「あちらですわ」


 テントが見えた。

 この騒ぎの中にあって何ともないように見えるのはすでに避難を終えたからだろうか。


「……お嬢様、血が」


「やはり何かがありますわ」


 テントの入り口、下から血が流れている。

 もう手遅れかもしれない。


 そう思いながらもせめて犯人を捕らえられればケルフィリア教の企みのいくらかは阻止できるかもしれない。

 アリアとクインは視線を合わせてうなずく。


 アリアがテントの入り口を開けてクインが飛び込んでいく。


「何をしている!」


 中にいたのは2人の男性騎士と1人のメイド、そしてベッドに横たわるエオソート。

 入り口横にはエオソートの護衛についていたのだろう騎士の死体が転がっている。


「何者だ!」


「お前らこそ何をしようとしている!」


 クインが1番近い騎士にナイフで切りかかる。

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