疑いの狩猟祭4
隠しきれない自尊心が見え隠れするくだらない自慢話を下手くそな話術で聞かされることに比べればパメラのしっかりとした話し方で面白い噂話を聞いている方が何倍もマシである。
そこらのご令嬢とは一味違う。
「噂についてはほとんどデタラメ……面白おかしく噂が膨れ上がっただけですわ」
「ほとんど……ですか」
そこに引っかかるかとアリアは思った。
どこが正しいかなど言いはしないが全部ウソだと否定もしない。
単純に噂だったのかと受け入れるのではなく噂の中に真実もありそうなことの方にパメラは目を向けていた。
面白い女性である。
「あっと、始まるみたいですね」
招待した人がおおよそ揃い、時間になった。
「本日はこうしてお集まりいただきましてありがとうございます。
本日のお茶会はカンバーレンドが主催。
このエオソート・カンバーレンドがお役目を務めさせていただきます」
「ご当主のギオイル様の奥様ですね」
パメラがポソリとアリアに教えてくれる。
アリアが社交の場に不慣れなことを知っていて知らないかもしれないと気をきかせてくれた。
実際アリアも名前は知っていても顔を見るのは初めてだった。
前回のカールソンのお披露目の時には姿を見せなかった。
体調が悪いのだと言われていて、エオソートの姉が代わりに役割を果たしていた。
見た目に体調が悪そうには見えない。
顔色も悪くはないし多く人がいるこの場でも聞こえるようにハキハキと声を発している。
けれどアリアは見ていた。
指先がわずかに震えている。
なんてこともなく笑顔を浮かべているように見えているが何かしらの不調を抱えている。
「それではお楽しみください」
一仕事終えたエオソートはたおやかに礼をしてお茶会が本格的に始まった。
「お話で聞いていたよりもお元気そうですね」
実はエオソートの体調が悪そうなことに気がついている人はアリア以外にはいないように見えた。
話している人の指先が震えていることを見る人などまずいないからしょうがない。
「そうですわね」
人の体調が悪いなど確証もないのに口にしてはならない。
アリアはパメラの言葉に適当に同調しておく。
お茶会が始まるけど目の前にお茶とお菓子が運ばれてきただけでほとんどお茶会が始まる前と変わりはない。
「ここ、よろしいかしら?」
「えっ、あっ、その」
「初めまして、エオソート様。
アリア・エルダンと申します。
ぜひご同席くださいましたら光栄でございます」
「パメラ・スキャナーズです!」
「いいのよ、わざわざ立たなくても」
またパメラの話でも聞いて時間を潰していればいいかなと思っていたら席にエオソートが来た。
視界の隅では他のテーブルに挨拶回りをしていたのは見えていたのでこちらにも挨拶に来るだろうと予想はしていた。
パメラは気づいていなかったようで現れたエオソートに慌てるがアリアは冷静に立ち上がるとサラリと挨拶を述べる。
ただまさか同席の許可を求められると思っていなかったので年長者のメリンダを差し置いて許可してしまった。
「パメラ・スキャナーズさんね?
お祖父様、お父様はお元気かしら?」
「は、はい!
2人とも元気で毎日お酒を飲んで……あっ!」
しっかりしているように見えるパメラだったけどまだまだ子供である。
急なエオソートに冷静さを取り戻すことができなくてアワアワとしている。
「南部との取引の時にはスキャナーズ家にはお世話になりますからね。
お体大切にとお伝えください」
「分かりました!」
「アリア・エルダンさんですね。
お噂うかがっていますよ」
「それが良いお噂であれば良いのですが……」
「ふふふ、うちの息子があなたに興味を持っているって聞いたのよ」
思わぬお噂にアリアの笑顔が固まる。
「あの子、あなたにご迷惑おかけしていないかしら?
これまで女の子と接してこなかったので心配で」
「ご迷惑なことなどございません。
……それにあまり親しくもありませんので」
「あら?
そうなのかしら?」
あの野郎とちょっとカールソンのことを疎ましく思う。
どうやらカールソンがアリアに興味を持っていることが知られてしまっているようで面倒に感じる。
きっとエオソートの思うような感じではないとアリアは考えているのだけどアリアがオーラユーザーであるという重要な部分を隠して話を聞くと恋愛的な話に聞こえないこともない。
「うちのカールソン、どうかしら?」
「えっ?」
相変わらずニコニコしているエオソートから飛び出した言葉にアリアは驚かずにいられなかった。
今の発言からするとエオソートとしてはカールソンの相手としてアリアも考えられることになってしまう。
家の格的には釣り合うけれどエルダンでは問題があったばかりだしアリアの出自を考えるとそれだけで嫌がる人もいる。
なのにエオソートはそれを気にしている様子はない。
「カールソン様は悪いお方ではないと……」
「んー、あまりお好みではなくて?
母である私が言うのも何ですが顔は良い方であると思いますよ」
「お顔はよろしいのかもしれませんが私はやはり、その……」
「やっぱり自分を愛してくれる人がいいのかしら?」
「そうです、ね」
アリアが完全に押されている。
メリンダはお茶を飲みながら冷静にその場面を眺めている。
この際アリアの好みをより知る良い機会だなんて考えているので止めるつもりはない。