疑いの狩猟祭2
「お嬢様!
俺が案内しますよ!」
アリアもメリンダとお茶会の方に行こうとした駆け寄ってくる人がいた。
カールソンである。
思わず一瞬嫌な顔をしてしまったがカールソンに見られる前にどうにか取り繕った。
「大丈夫ですわ」
ただまあめんどくせぇから一度断っておく。
「そ、そう言わずに」
アリアの先制パンチにカールソンが早くも動揺を見せる。
なぜ案内の人が来ないのか疑問だったが理由が分かった。
カールソンがアリアに近づくきっかけを提供しようとしている。
相手の思惑はアリアには分からないけれどカンバーレンド家ではカールソンのことを支援している。
とても面倒臭い。
他に案内係が来るわけでも無さそうなので仕方なくカールソンについていくしかない。
「その、元気だった?」
「おかげさまで」
「きょ、今日はいい天気だね」
「そうですわね」
もっとまともな会話できんのか。
緊張したような声色のカールソンにアリアは無の表情で返す。
ただメリンダは少し愉快そうなものを見る目をしている。
「こちらです」
森の入り口横にある開けた場所にお茶会の席は設けられていた。
メリンダは自分で座るけれどカールソンはアリアの石のイスを引いてあげる。
小さくため息をついてその席に座る。
「お、俺も狩猟祭に出るんだ」
それは当然だろう。
カールソンが他の人と交流を深めるためのイベントでカールソンが参加しないことなどあり得ない。
「たくさん、獲物狩ってくるからさ。
それをアリアお嬢様に捧げるから」
イラナイ。
そういう前に言いたいことだけ言ってカールソンは行ってしまった。
「なんだい?
あなたたちそういう関係……じゃなさそうだね」
アリアの冷たい目を見れば分かる。
あんまりカールソンのことをよく思っていなさそうだ。
「どういう関係だい?」
「……強いて言うなら毒にも薬にもならないようなうっすい協力関係ですわ」
「そうなのかい……」
それがどんな関係なのか聞きたかったけどはき捨てるように言われてメリンダもそれ以上突っ込むのはやめた。
「でもまあ悪い子じゃないだろう?」
カンバーレンドは別に聖印騎士団と協力関係にないがカンバーレンドとケルフィリア教は敵対関係にある。
元が傭兵なので神様に大きく傾倒することがなかった家系で今では比較的秩序維持も行うのでケルフィリアの取り締まりなども行っていたりする。
兵力を持つので過去にケルフィリア教の信者勢力とぶつかったこともあって立場的には聖印騎士団と近いものがある。
そのために聖印騎士団はこっそりカンバーレンドを支持してきた。
次の当主がどのような人物であるのかも注目している。
だからカールソンのことも表面的な情報はメリンダのところにも入っている。
現在の評価はかなり高い。
元々頭が良くて品行方正、未来の当主としても全く問題のない人物であったが先日オーラユーザーであることを明かしてその評価はさらに上がった。
現在の当主であるギオイルもカールソンのことを可愛がっているしこれからもケルフィリア教と戦う良い友でありそうだと評されている。
別にアリアを使ってカンバーレンドを取り込もうなどと考えてはいないのだけどアリアの相手としても遜色ないとメリンダは思った。
顔も美形で将来性も高い。
「悪くないことはすなわち良いということでもありませんですわ」
「そうかい?
ならどんな相手がいいんだい?」
「…………ケルフィリア教の教祖と幹部の首を私に捧げてくれるような殿方がいいですわ」
カールソンでダメならどんな相手がお好みか。
軽い会話のつもりで聞いたのだけどとんでもない相手をご所望だった。
「そんなもの昔いた剣聖ぐらいじゃなきゃ無理だろうね」
「なら、剣聖が私の好みですわ」
「剣聖もかなり美形だったなんて話もあるけどね」
「失礼。
こちらの席よろしくて?」
「ああ、お座りなさいな。
私はメリンダ・アクオ。
こっちはアリア・エルダンだよ」
人が増えてきた。
何もアリアたちの席はアリアたちだけのものでもない。
綺麗な赤毛のご令嬢がアリアたちがいるテーブルにやってきた。
背が高くてややタレ目の優しそうな女の子。
「パメラ・スキャナーズと申します。
よろしくお願いします」
「スキャナーズ……絹の織物の取引で南部で名を馳せた豪商だね」
「あら、存じ上げてくださっていましたか」
第一線で長らく諜報員として活動していたメリンダは当然貴族のことを頭に入れている。
今でもある程度は知っているし力を持つ大きな貴族ぐらいは知っていて損なことはない。
スキャナーズは国の南部で活躍する商人であった。
質の良い絹の織物を扱い、大金を稼いで貴族の爵位を買った。
中にはそんなやり方をして貴族になったスキャナーズを批判する人もいたがスキャナーズは気にもとめなかった。
一代で財を成した豪商の孫娘にあたるのがこのパメラであった。
よくよく見ると派手なデザインではないがドレスに使われている生地の質が高いことはめざといものなら気づける。
「ええと、私こちらにあまりお友達がいなくて……
よければお友達になってくださいませんか?」
「私でよければ、パメラ嬢」
「パメラでよろしいですよ」
「では、パメラ」
パメラのことは記憶にない。
情報がないということであるがそれは悪いことでもない。
アリアに対して悪いことをしたのでもなければ、噂になるような行動をとっていない人物であるということになる。
良い噂の記憶がなくても友人になる分にはこうした平穏に暮らしていた人はピッタリである。