招待状のお返事が届いたようです
「名簿の更新はないのですか?」
「ええ、今のところ新しいお返事はございません」
「う、そうか……」
カールソンが狩猟祭に関する雑務も担当する執事に質問して、そして少ししょんぼりしたような顔をする。
このやりとりも何回目だと執事は思う。
何を、あるいは誰を待っているのか執事には分かりきっている。
最初はエルダン家のご子息をライバル視でもしているのかと思っていたがどうにもそうでないことが分かった。
メイドに聞いてみたところカールソンはある相手に頻繁に手紙を出していた。
そのお相手がアリア・エルダンであった。
恋をしているとまで言い切ることは出来ないが確実に気にしている。
お茶会があれば招待するしそうでなくとも何かしらの手紙を書いている。
メイドたちはカールソンの初恋だなんて噂しているがアリアとカールソンに大きく接点があったわけでもないからどこに恋したのか執事には分からなかった。
どちらも大きな家門の子供である。
その2人が仲睦まじくすることには様々な思惑が発生してしまう。
たとえ本人がそう意識しなくとも。
その先にある、例えば結婚という話になればカールソンが当主になってアリアはカンバーレンドの女性を束ねる女当主となる。
エルダンとカンバーレンドの関係やその他との付き合い方、家の中でも大きな勢力の変化が起こる。
そう軽く見ていい話でもない。
ただこうして何回も聞きにくるカールソンは珍しく感情が表に出ているので可愛らしいとは思う執事であった。
「おぼっちゃまー!」
「どうした、オモノ」
「なんと、エルダン家からお返事が届きました!」
トレーを持って走ってくる若いメイドはオモノと言って昔からカールソンに仕えるメイドである。
見るとトレーの上には1通の封筒。
エルダンの家紋の封蝋で閉じてある薄いピンク色の封筒はどう見ても男が使うものではない。
それを見てカールソンも差出人が分かった。
「本当か!」
はやる気持ちを抑えられずカールソンはその場で封筒を開けて手紙を読み始めた。
普段ならうるさくマナーがなっていないと怒るところだけど今は誰の声も届かなさそうで執事は大人しく様子を見守る。
「イーデ」
「はい、おぼっちゃま」
「名簿更新の必要がありそうだ!」
満面の笑みを浮かべるカールソンを見れば手紙の内容もなんとなく予想がつく。
「それではアリア・エルダン様はご招待に応じられると?」
「うん。
それとアリアさんの叔母であるメリンダ様も保護者としてご同行させたいとのことなのでそれもお願いします」
「分かりました」
子供だけで行かせるのは不安なので保護者がついてくることはある。
まだ社交の場に不慣れなアリアなら当然のことだろうと誰もが思う。
「やりましたね、おぼっちゃま!」
オモノはカールソンがアリアに気があると思っている1人でその中でもぶっちゃけた話2人をくっつけたいまで考えている過激派であった。
普段の手紙の内容もオモノの指導が若干入っている。
「あとはおぼっちゃまがたくさん狩猟してお嬢様に成果を捧げればイチコロですよ!」
「オモノ……そんな単純な話でもないでしょう」
そもそもカールソンがなぜあんなにも手紙を出して、それにもかかわらず相手から返事が来ないのか。
カールソンに訪ねてみたところ失礼を働いたのだと答えた。
手紙も返さないほどに相手に悪印象を与えているのなら簡単な話ではなくなってくる。
ゴラックから抗議が来ていないということは大事でないのだろうが貴族の女性は難しいところがある。
本当のところは執事のイーデもこれまで女性に興味を示さなかったカールソンが恋をしてくれるならそれでもいいとは思っている。
「でもやっぱり男性が自分に狩猟したものを捧げて愛を囁いてくれるのは憧れますよ!」
「それも王家主催の狩猟祭でのことでしょう?
うちで開かれるものは競い合いを目的としたものではなく交流を目的としたものですよ」
「だからといってやっちゃいけないなんてことはないと思います。
むしろやってないからこそやられた時にキャー!ってなりますよ!」
オモノが過激派だとするならイーデは穏健派とでも言おうか。
どうアプローチするかの考え方の違いがある。
イーデは常識的に距離を近づけていくことを好むがオモノはロマンチックな方法で一気に近づけたい。
カールソンを応援したい気持ちはあるが相容れない部分があった。
「カールソン様」
「カイン」
そこにカインがやってきた。
カインはカールソン付きの見習い騎士ということになっていて、騎士としての訓練も受けながらカールソンのオーラの師匠にも指導を受けていた。
カインは顔が良く、非常に良い子なのでメイドたちもカインを可愛がっていた。
「師匠がお呼びです」
「師匠が?
分かった。
すぐにいく」
カールソンはオモノに手紙を渡してカインと共に行ってしまった。
「なんにしてもです。
焦って行動するのは良くないでしょう」
「ですが今回ようやくお返事出してくれたんですよ?
一度ドラマチックに心を引き寄せておかないと次はないかもしれないじゃないですか!」
オモノとイーデ、どこまでも平行線な2人なのであった。