招待状のお返事もマナーです4
それに問題はケルフィリア教の炙り出し計画が漏れていることである。
極秘のはずの作戦を知っているということは当主に近い存在にスパイがいる可能性がある。
秘密裏に暗殺について警告してそれがケルフィリア教にバレたらどんな手を使ってくるのか予想もできない。
「……手立てがなきゃリスクを冒して警告するしかないんだけどね。
カンバーレンドに潜り込める良い手なんてないのが現状……なんだい、その顔は?」
深刻な話を真面目にしているのにアリアはニヤリと笑っていた。
「最近オバ様にお世話になりっぱなしだと思っておりました」
「いきなりなんだ?
別にそんなに負担なこともないから平気だよ」
「ですが貸しを作りっぱなしというのは嫌なんです」
「何が言いたんだい?」
「カンバーレンドの狩猟祭に堂々と参加する方法があるとしたらどうですか?」
「んん?
そりゃあ、ありがたい話だけど……」
「ここに私に来たカンバーレンドからの招待状がありますわ」
アリアはカンバーレンド家の家紋が描かれた封筒を持って可愛らしく微笑んでみせた。
中身は招待状で、内容は狩猟祭への招待たった。
この時期のカンバーレンドは貴族の交流として狩猟を主な目的とした狩猟祭を執り行う。
さらにはカールソンがアカデミーの学生であるので同年代の子供も招いて共に狩猟をしてアカデミーの外でも絆を深めておく目的がある。
同様の招待状がディージャンとユーラのところにも来ているけれどアリアに来た招待状はちょっと違う。
女性のアリアが狩猟に参加することはできないので狩猟祭で同時に開催されるお茶会に参加しないかという招待であった。
本当は狩猟にお茶会などそぐわないのだけどもっと大規模に開催される王族主催の狩猟祭では男性は狩猟の腕を競い、意中の女性に獲物を献上するということをする。
そのために女性も安全なところで狩猟してくる男性の帰りを待つのであり、こうした狩猟祭に近いスタイルをマネするために女性のお茶会も同時に開催されるのだ。
狩猟に参加してもいいのだけど今回はお茶会の方に誘われている。
「保護者としてオバ様もご参加なさいませんか?」
狩猟場の近くでお茶会は開かれることになる。
そのために女性たちは自分を守るための騎士を数人連れて行くことも慣例である。
他の人たちだって護衛を連れてくるのだ、多少護衛の数人いなくなって暗殺を警戒してもバレはしない。
「なるほど、それはいい考えだね」
悪くはないアイデアだと思う。
暗殺が行われるかもしれない場に向かうことにはなるが理由をつけて人を入れられる。
実はエルダン家の騎士の中にも聖印騎士団もいるので上手くやれば暗殺を防げるかもしれない。
「本当は行くつもりなんてなかったのですが……カンバーレンドは以前にも行かせてもらったお家なので行くといえば私の方も無理がなく説明できますわ」
「賢い姪っ子を持てて、私は幸せだね」
「あら、ステキなオバ様がいて私も幸せですわ」
「どう人員を配置するのか考えなきゃね」
言ってもそんなに多くは連れていけない。
アリアの護衛はエルダンから出すとしてメリンダの護衛として聖印騎士団を連れていくとか、ディージャンやユーラも行くならそちらも上手く聖印騎士団の騎士を入れ込めないか考えなきゃならない。
「優秀な人を送ってもらうことも視野に入れておくかね」
ただ心配なことはある。
招待状なのだけどカンバーレンド家なのだけどその中でもお家全体からというよりカールソンの名で送られてきている。
やたらとカールソンはアリアに手紙を送ってくる。
謝罪したいとかまた会いたいとかどれほどオーラユーザーであるアリアを引き込みたいのかと不愉快になる。
だから狩猟祭にも行かないつもりだったのだけど事情が事情なだけにメリンダだけ行ってもらうことも出来ない。
カールソンと顔を合わせることがなければいいのだけど。
そう思ってアリアは招待状を投げ捨てるように置いて小さくため息をついた。