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招待状へのお返事もマナーです1

 ヘカトケイを探すのは難しい。

 そのことは未だに情報屋から連絡がないことからも分かっている。


 だからといって遊ぶはずもなくアリアはオフンの下で鍛錬に勤しんでいた。

 剣術レベルは1つ上がって8になったのだけどその間にも追い越そうと思っていたユーラはさらに頑張ってレベル10にまで達していた。


 レベル10になると一人前と言えるレベルで真面目にやっていればユーラも剣の才能が大いにあったことが判明した。

 アリアについては8で伸び悩んでいた。


 日々少しずつ上達はしているがそんなに剣に関しては飛び抜けた才能もなかったのだ。

 けれど代わりに他のものも習い始めた。


 短剣術、槍術、盾術の鍛錬、あるいは体術や走法といった体の機能をさらに上げるために障害物を置いて走ったりと色々やれることはやっていた。

 そうした日々の中でとうとうメリンダがお願いしていた礼儀作法の先生がエルダン家に到着した。


「ファノーラ・エンバートンと申します。


 よろしくお願いします、アリアお嬢様」


「よろしくお願いします、エンバートン公爵夫人」


 すでに礼儀作法が高いレベルにあるアリアが箔をつけるために呼んだ先生だったのだけど意外な人物でアリアも驚いた。

 ファノーラのことはアリアも知っていた。


 中立派と呼ばれるどの派閥にも属していない人でありながら社交界でも有名な人だった。

 エンバートン公爵家当主の夫人でありながらファノーラの血筋を遡っていくと実は王家の血筋も混じっている。


 100人かそれぐらい王位継承権を持つ人を潰していけば王女になることも可能な血筋でもあるのだ。

 現実には100人もライバルを消してしまえばファノーラも無事ではすまないので不可能な話ではあるが血統が大好きな貴族たちの中ではやはり高貴なお方になるのだ。


 回帰前はファノーラを味方に引き込もうとしたこともあったのだけど失敗に終わった。

 尊敬すべき人物である。


 こうして先生をしてもらえるとはちょっと嬉しさすら感じる。

 当然ながら記憶の中にあるファノーラよりもかなり若い。


 しかしお辞儀1つにしてもお手本のように美しく、穏やかに微笑えみには温かさも感じる。

 聞くところによるとファノーラは聖印騎士団ではなくメリンダの婚家の方のツテであるらしい。


「そう緊張なさらなくても大丈夫ですよ」


 きっとファノーラのところには先生に来てほしいという誘いが多くあるはずなのにこうしてアリアのところに来てくれた。

 緊張しない方がおかしいというものだ。


「ふふっ、珍しいね」


 アリアの様子を見ていたメリンダが笑う。

 いつも余裕がありそうな態度をしていたのにファノーラの前では年相応のお嬢さんのようだ。


「アリアなら大丈夫だよ!」


「お嬢様頑張ってくださ〜い!」


 観客にはディージャンとスーシャウがいた。

 前の礼儀作法の授業ではとんでもない先生だったから心配なところもあるのだろう。


「愛されておいでですね」


「……はい」


 アリアは顔を赤くする。

 他のところではこんな風に授業を観にくることなんてまずない。


 邪魔しないのならファノーラも特に追い出したりしないけれどアリアがいかに愛されているかがよく分かる。


「それではまず基本的なところから見せてもらいましょう」


「はい、よろしくお願いします!」


 適切な審査の目で見られる。

 笑顔を消して真面目な顔になったファノーラのただの粗探しとはまた違う目にアリアは緊張を覚えた。


 最大限に美しく見えるように。

 指先、頭のてっぺんにまで気を遣って動作を行う。


 お辞儀1つでも相手に与えられる印象は変わってくる。

 歩く動作1つで共に歩くパートナーをより際立たせることが出来る。


「どうでしたか?」


「……私の指導などいらないようなレベルですね」


 ファノーラは小さく拍手を送る。

 アリアはもうどこの社交界に送り出しても恥ずかしくないほどに出来ていた。


 これまで何人もの子供たちを見てきたけれどここまで出来た子が他にいただろうかと思えるぐらいだった。

 事前にメリンダからは出来る子と聞いてはいたが身内の評価など当てにならない。


 出来た年でも限度があると考えていたのに本当に出来ていた。


「何ヶ所か、直しましょう」


「そ、そうですか……」


「あなたが悪いのではありませんよ」


 そのままでもアリアを指摘できる人などいないだろうとファノーラは思ったけどより完璧に近づけてあげられるなら完璧にしてあげたい。

 ファノーラは見ていて気になったところを指摘した。


 それは出来ていないのではなくまだ身体的に成熟していないアリアにはやるのが大変で多少無理をしているところであった。

 今無理をしてそうした動作をするよりも体にあったように行う方が自然に見えると指摘したのである。


 分かっているのならもう少し大人になって無理なく出来るようになった時に修正すればいい。

 後は古めのマナーになっているところがあるのが気になると言われた。


 特にそれは問題ないのだけど今の人であれば簡略化したものを行うので厳格すぎると目立つかもしれないことも指摘した。

 これにはハッと気付かされた。


 回帰前の影響から自然とそうしていたけれどマナーや礼儀作法のやり方も時代によって少しずつ異なっていることもある。

 アリアのやり方はまるで王族みたいなきっちりとしすぎたやり方で逆に浮いてしまうかもしれなかった。

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