母の跡を継ぎ3
「放蕩癖があるからね。
しかもリャーダがやられてから余計に酷くなった」
「なぜひどく?」
「復讐さ。
色んなところにケルフィリア教の支部はあるからね。
それを潰して回っているのさ」
そんなことをしていたのか。
アリアが会った時には稽古は厳しく、普段は穏やかに笑う年配女性だったぐらいの印象しかなかった。
回帰前で出会った人たちの知らなかった過去をこんな形で知ることになろうとは世界は狭いものであるとアリアは感心する。
「お母様のためですか?」
「そうとも言えるかね。
自由な上に元々強いお人だから止められる人もいないのが厄介なところだね」
「……ぜひお母様のお師匠様にお会いしてみたいですわ」
「今のところ他にアリアを教えられそうな候補もいないからね。
連絡を取れないかやってみるよ」
「ありがとうございます、オバ様!」
思わぬ方向ではあるが良い向きに物事が動いている。
久々に気分が良い。
「そしてここまで知られた以上は聞いておくよ」
「なんでしょう」
「アリア、あなたは聖印騎士団に入るつもりはあるかい?
母親のようにケルフィリア教と戦う気が、あなたにはあるかい?」
こんなに知られた以上は引き込めるなら仲間に引き込むか、あるいはそれでなくても協力関係は結んでおくのが普通である。
実際イェーガーの方は聖印騎士団ではなく聖印騎士団の協力者という立場であった。
だけどもしアリアが拒否しても構わないとメリンダは考えていた。
そうなったらここでの話はメリンダが胸の内にしまっておけばいいだけのこと。
クインも聞いているが告げ口するような人ではない。
「私のお母様とお父様を奪い、私の人生を奪った。
そしてエルダンにも入り込んでおじ様やお兄様たちの母親を奪った」
ついでに回帰前にはアリアを散々利用してくれた。
「……許されざる行いですわ。
ケルフィリア教は誰かが止めねばなりません」
両親の話を聞いてよりアリアの中に燃える復讐の炎は大きくなった。
ケルフィリア教に対抗するためには1人ではどうしても心許ない。
しかしケルフィリア教と戦い続けてきた組織と共に戦えるならこれほど心強いこともない。
アリアの母親のリャーダも入っていたとなればもはや断るなど考えられない。
「私も聖印騎士団に入れてください」
真っ直ぐにメリンダの目を見つめるアリア。
そこにメリンダはリャーダの姿を重ねた。
どんな時にも諦めない強い光を宿した目をしている。
皮肉なことに母親の死がアリアを母親のような強い子にしたのだとメリンダは思った。
「オーラを扱えるなら聖印騎士団も文句はないだろうね。
そちらについても打診しておくよ」
「ありがとうございます、オバ様」
「ただ……」
「ただ、なんですか?」
「あんまり無茶はしないでおくれよ?」
メリンダは寂しそうに笑った。
「もうケルフィリア教のせいで誰かを失うのは嫌なんだ。
復讐したい気持ちは分かるから止めはしないけれど命を投げ出す無茶だけはしないと約束しておくれ」
「…………ええ、分かりましたわ」
残された者の悲しみ。
それはアリアにも痛いほど分かる。
多少の無茶はすることはあるかもしれない。
でもアリアに死ぬつもりなんてものは毛頭ない。
ケルフィリア教を全て潰すことがアリアの目的である。
そのためには死んでなどいられない。
「私は死にませんわ。
死ぬのはケルフィリア教のバカだけで十分ですもの」
アリアも笑った。
優しく笑っているようなのにどこか冷たさを感じる笑顔にメリンダは安心したような、不安に思うような、あるいはケルフィリア教を心配にすら思うような、そんな気持ちであった。