母の跡を継ぎ2
それにやはりメリンダでは近すぎることもあった。
冷静に物事を監視するには内部の人間も必要だけど第三者的な目も必要である。
「まさかあなたをきっかけにして全部がバレることになるとは思いもしなかったよ」
事の経緯は聞いた。
ビスソラダが用意したケルフィリア教の先生の体罰に気づいたことをきっかけとして全てが明るみに出た。
全部アリアの誘導によるものだけれど話としては間違いない。
「おかげで余計な血を流すこともなく解決できたよ。
あの子たちは母親を失くすことになってしまったけれどケルフィリア教に関わっていたのならどの道そうなることは避けられなかったろうさ」
「ビスソラダ様のことは残念でなりませんわ」
「ふん……あの性悪女が消えたって悲しむ人の方が少ないさ。
アリアもそうだと思っていたけどね」
ついでにアリアが家の中で冷遇されていたことも聞いた。
冷遇の発端もビスソラダであるのでアリアも良くは思っていないだろうことは見抜いていた。
「はい、嫌いでしたわ。
ですが死ぬべき人だったかまでは分かりませんもの」
「……ただのおとなしい子じゃなかったのね。
ただそっちの方が私は好きだよ」
メリンダにならアリアの本性をある程度は見せてもいいだろう。
ニコリと浮かべていた笑顔を消してスンと無表情になるアリアを見てメリンダが笑う。
しかし最後の一線は越えない。
アリアが殺したことは言わないし、死ねばよかったなどと疑われるようなことも言わない。
本当の腹の中は決して見せないのだ。
けれどこれまで会ってきた人の中でメリンダは1番信頼できるとアリアは思った。
何よりケルフィリア教の敵である聖印騎士団である。
今後復讐をするためにもメリンダの利用価値は高い。
「それとアレだね」
「アレですか?」
「先生を変えないといけないね」
「先生をですか?」
「そう。
オフンも優秀な先生だがオーラは扱えない。
オーラを教えることができるのはオーラユーザーだけだからオーラユーザーの先生を探さなきゃならないさね」
「オーラユーザーの先生ですか、それはステキですね!」
ずっと望んでいたのがオーラを教えてくれるオーラユーザーの先生である。
他のものも単独で上げようとすると難しいがオーラがその中でもずば抜けて難易度が高い。
それでいながら先生も少なく、オーラが扱えることを秘密裏にして探すことはまず不可能だった。
仕方がないのでオーラに関してはもう少し大きくなったらゴラックにオーラが発現したと明かして先生を探してもらうつもりだった。
しかしメリンダに対してはオーラが使えることはバレてしまった。
さらにアリアのオーラはかなり力が強く、メリンダは早めにオーラを制御する方法を覚えねばアリア本人に負担がかかると考えていた。
「けれどオーラを教えられる先生ねぇ……」
目をつぶって適切な人がいないか考える。
聖印騎士団にもオーラを使える人はいる。
いるのだけど条件的なことを考えると適切な人が思い浮かばない。
そもそもオーラを使える人材は少ない。
そこにオーラを教えられること、さらには女性の先生となると思い浮かべた候補があっという間に消えていく。
仮に男性の先生だとしても少なく、オーラユーザーは聖印騎士団の中でも重要な任務についていることも多い。
「ヘカトケイ様はいかがでしょうか?」
黙ってメリンダの後ろに控えていたクインが口を開いた。
ヘカトケイと聞いて思わず反応してしまいそうになるのをアリアは堪えた。
「ヘカトケイ様だって?
……いや、それも良いかもしれないね」
なぜヘカトケイに様を付けるのか聞きたくなったがまず聞かなきゃならないことがある。
「ヘカトケイ、とはどなたでしょうか?」
「そうだね……ヘカトケイ様は聖印騎士団の中でも古株の女性騎士だよ。
本来なら高い地位にも居られるお方なんだけど……なんというか自由な人でね。
聖印騎士団も彼女のことは縛らないで自由にさせているのさ」
「へぇ……」
「それにもう1つ彼女がアリアに良い理由もある」
「それはなんですか?」
「リャーダのオーラの先生はヘカトケイ様なのさ」
「ええっ!?」
ある種の奇縁である。
アリアはゼムーシャ・ヘカトケイという女性を知っていた。
なぜならヘカトケイは回帰前にアリアにオーラの使い方を教えてくれた先生なのであった。
味方もおらず心情的にも不安定だったアリアに寄り添ってくれて生き抜くための術とオーラを隠すための方法を教えてくれた。
今ではオーラを扱う方法をもっと学んでおけばよかったと思うが確かにヘカトケイはアリアの先生であったのだ。
だから情報屋にも探すように依頼した。
オーラの先生としてもヘカトケイならピッタリだと思ったからだ。
それなのにまさかメリンダの口からヘカトケイのことが言及されるだなんて思いもしなかった。
「お母様の先生でいらっしゃった」
しかもヘカトケイはアリアの母親であるリャーダのオーラの先生だったという。
あまりにも偶然がすぎる話である。
「実力もあるし、オーラの扱いも上手い。
確かに先生になってくれるなら1番と言っていいほどの人だけど……」
「だけど……?」
メリンダの歯切れの悪さが気になる。