母親の正体3
両親がケルフィリア教に傾倒して、捨て駒にされてしまったという過去を持つリャーダは小さいころに教会に引き取られたのだけどそこで聖印騎士団の一員となる。
そして聖印騎士団としてケルフィリア教を監視していたところ、メリンダが狙われていることを知って助けてくれたのであった。
「私が持っていた証拠もあって支部を一つ潰すことが出来た。
わざわざ小娘1人のことを全体で共有する必要もないから支部を潰せれば一応は安全を確保したということだったんだ」
ただそれで本当に安全かは分からない。
どこかにメリンダの名前が載っているかもしれないし、情報を持った信者が逃げているかもしれない。
そこでリャーダはメリンダを聖印騎士団に引き入れることにした。
団員であればケルフィリア教の動きを共有できるし、より強く保護することもできる。
リャーダが掛け合ってくれたおかげでメリンダも聖印騎士団に加わることになった。
一転してケルフィリア教を追いかける側となったメリンダであったのだがその活動は家族であっても秘密だった。
しかしそれに気づいた人物がいた。
「それがイェーガー兄さん……あなたの父親だよ」
「お父様が……」
「よく家族にも目を配る人だった。
だから私の変化にも気づいたんだろうね」
何かメリンダが危ないことをしようとしているとアリアの父であるイェーガーは気がついた。
止めなければならないとメリンダの後を追いかけたイェーガー。
「そこでリャーダと兄さんは出会ったのさ」
最初リャーダとイェーガーが仲が悪かった。
イェーガーはメリンダを危険に巻き込もうとしているとリャーダのことを敵視していて、リャーダはイェーガーに活動の邪魔になると怒っていた。
けれどイェーガーも頑固な男で何を言っても引き下がらなかった。
だからといってそう簡単に聖印騎士団の説明もできないし、聖印騎士団にも入れられない。
違法なことをしている宗教を追っているとだけ説明してイェーガーもメリンダとリャーダの監視のために手伝うことになった。
時として危険なこともあった。
メリンダの機転やイェーガーの剣の腕などで乗り越えてきたのだけどその中でもやはりリャーダの活躍は大きかった。
「リャーダはね……オーラユーザーだったのよ」
「お、お母様が……オーラ……ユーザー」
たとえ人生を何度繰り返したとしてもこの話を驚かずに受け入れることなどできない。
次々と飛び出してくる母親の話にアリアは開いた口が塞がらなかった。
「それもあなたと同じ、真っ赤な美しいオーラの持ち主だったわ」
別にオーラは遺伝するものでもない。
一応オーラユーザーの子がオーラを発現する確率は高いけれど他の人との差は少なく、しかもオーラの色は違っていることの方が多い。
メリンダはとても驚いた。
アリアがオーラを使えることもそうだし、まるでリャーダの姿を思い起こさせるような赤いオーラだったから。
剣を習いたいと言った理由も納得がいった。
オーラが扱えるのならオーラを扱うために剣も扱えるべきである。
そうして3人で難局を乗り越えてケルフィリア教と戦った。
生死を共にするような場面もあるのだ。
側にいた男女がどうなるかは言わずとも分かるはず。
「リャーダと兄さんは恋に落ちた」
メリンダは寂しげに微笑んだ。
2人が恋仲になることはもちろん嬉しかったし祝福した。
でも親友を兄に取られた、あるいは兄を親友に取られた、そんな微妙な思いもあった。
恋人になったはいいがケルフィリア教は世にはびこり続けていた。
それを見過ごせるリャーダでもないし、イェーガーももう事態は理解していた。
結局何も変わらず活動は続けることにした。
「そんな時にリャーダが子を宿したんだ」
「まさか」
「そう、それがアリア、あなただよ。
私も含めて3人で悩んだ」
身を引くにはあまりにも深く関わり過ぎていた。
せっかくのオーラユーザーでもリャーダを手放すのは聖印騎士団としても惜しいしリャーダも活動は続けたかった。
そこで2人は第一線からは退くことにしたのである。
諜報などの活動を主にし支援をすることでケルフィリア教と戦うことにした。
アリアが一人前になって独り立ちできるようになったらまた活動を再開するつもりだった。
「だけどリャーダのことを父上が認めなくてね」
メリンダを連れ戻すはずのイェーガーがいつの間にメリンダと一緒になって行動している。
長男でもあったイェーガーには次期当主としての期待もあって、イェーガーの父親はリャーダとの結婚を許さなかった。
「……だから2人は駆け落ち同然に家を出た。
元々聖印騎士団として活動するのに拠点はあったし苦労はしなかった。
私ももちろん知っていたしね」
こうして2人は平民として生きていくことに決め、アリアが生まれた。
イェーガーもリャーダもたいそうアリアのことを可愛がっていたが事件が起きた。
「聖印騎士団の団員が捕まってね。
ひどい拷問の末に仲間の名前を吐いてしまった……」
他の聖印騎士団が助けに行った時にはまだ息があったらしい。
苦しみながらうわ言のように殺してくれ、すまなかったと涙ながらに願う団員はそのまま息を引き取った。