剣を習おう4
アリアがビスソラダを倒して手に入れたのは平穏だけでなく自由もである。
シェカルテにお金をとられ、ビスソラダに監視されている中では動こうと思えば家主であるゴラックの許可と疑われない正当な理由が必要だった。
だからシェカルテやイングラッドを介して動くことが求められた。
今はもうビスソラダはおらずアリアに割り当てられたお金は自由に使える。
行動する自由も手に入れたのである。
「明日向かいましょう。
準備をしておいてください」
「かしこまりました」
「お茶の準備ができましたぁ〜」
仕事はちゃんとしているスーシャウがすぐにお茶を持ってきた。
「少しお茶でも飲みながらのんびりしましょうか」
持ってきたカップは3つ。
こうした時に使用人が同席することないのだけどアリアはシェカルテやスーシャウも共にお茶を飲むことを勧めた。
1人で見られながらお茶するよりみんなで飲んだ方がいいからだ。
「ビスソラダ様はとっても厳しいって聞いていたのでお嬢様の専属になれてよかったです〜」
メイドと一緒に紅茶を楽しむ貴族なんてまずいない。
アリアはわがままを言わない。
むしろ自分のことは自分で済ませてしまおうとするのでスーシャウの方が慌てることもある。
非常にお世話が楽。
細かいところまで見てメイドを叱責することもあったビスソラダとは全然違っている。
スーシャウはウソをつく人でなくアリアを褒めちぎるようにメイドの中でも話すのでアリアの評価も変わりつつあった。
ビスソラダがいなくなったのでアリアに付きたい人も多いけれどメイドばかり多くても管理しきれない。
こうしてやっていけばエルダンを裏で支配することは可能だろうけど自分のものにするつもりはない。
そのうちにディージャンが結婚すればそのお相手が新しい家事のリーダーとなるだろうから余計な衝突を生みそうなことも今のうちから避けておく。
簡単に管理できる範囲で、裏切れば処理しやすい程度であればいい。
「そう、私もあなたでよかったと思っているわ」
「えへへ〜誠心誠意お仕えしますね!」
ーーーーー
「アーグ通りにあるお菓子屋さんに向かってちょうだい」
「かしこまりました」
手放しで自由、ということでもない。
外出には危険が伴う。
貴族のご令嬢ともなれば誘拐して……なんて狙う人がいないなどと言えはしない。
そのために比較的自由に外出できるようになったが護衛を連れていかねばならないのである。
「では参ります」
アリアが中に入るのを嫌がったので御者台に2人並んで座る騎士はレンドンとヒュージャーであった。
この2人はビスソラダの暗殺者を倒した一件で評価が上がった。
雑務を押し付けられることの多かった下っ端騎士だったが刺客であった騎士を倒したことにより大きな仕事も任されることになった。
それがアリアの護衛である。
皮肉なものだ。
アリアが疎まれていて立場が低いときは雑用のように押し付けられた仕事がまさかアリアの立場が上がったことにより大切な仕事として降りかかることになるなんて。
ただ門の前で突っ立っているだけやディージャンとかユーラの護衛よりも可憐な少女の護衛の方が遥かにマシ。
今では重要な仕事であるし文句を言うなら代わってくれと言う人の方が多いだろう。
アリアが馬車に乗り込んだのを確認して馬車を走らせる。
護衛の他にもシェカルテが共に来ている。
行きたいのはシェカルテが調べたペイガイドというお店なのであるがそこだけを目的にすると護衛に怪しまれることになってしまう。
今回の外出の目的はお菓子屋さんだ。
あくまでも表向きはそうなっている。
女の子がお菓子なりケーキなりを買いに行くことはなんら不思議ではない。
そのためにアリアは時々本当にお菓子屋さんに外出しに行き、時としてみんなにお土産などを買ったりしてお菓子やケーキを買いに行く外出をすることを印象付けてあった。
街のどこにでも行けるように町中のお菓子屋さんやケーキ屋さんも調べてある。
ゴラックは外出は危ないから人を行かせればいいと言うがメリンダがこういうのは自分で選びたいものだと擁護してくれた。
エルダンの屋敷がある場所から町の反対側にはちょうどそこそこ有名なお菓子屋さんがあった。
だから今回はそこに向かっていることになっている。
ちゃんとそこでお菓子を買って疑われないように偽装工作はするけれど本来の目的はアリアの他にシェカルテしか知らない。
普段からお菓子屋さんに行っているので町の反対側まで行っても疑われない。
お菓子屋さんの近くまで来たら馬車をヒュージャーに任せてレンドンを連れて少し歩く。
お菓子屋さんでは少し日持ちしそうなものを中心にいくつか選んで購入する。
「少し他のお店を見て回りますわ」
お買い物は女の子の性である。
お菓子屋さんだけで済まないことはレンドンも分かっているので黙ってアリアについていく。
少し服屋なんかを覗きながら目的の場所に近づいていく。
「このお店を見てみますわ。
……狭そうなので外でお待ちいただいても?」
そうしてたどり着いたのが小さい古書店のペイガイドというお店であった。