剣を習おう3
「何がある分からないじゃないか!」
「そ、そうだよ!
それに会いに行くのも遠いじゃないか!」
「えぇ……」
ちょっと予想外の反応。
ディージャンとユーラはともかく真っ先にゴラックに拒否されたのは予想もしていなかった。
「ま、まだ仕事も多いしな。
姉さんも手伝ってくれているが2人きりというのも……」
「なんだい、私じゃ不満だってかい?」
「いや、そういうわけでは……
ど、どの道先生が決まるまでは暇だろう?
ならばもう少し手伝ってくれてもいいとは思わないか?
自由にできる生活費も増額しよう」
「必死だね。
そばにいて欲しいと言えばいいものを」
「姉さん!」
「回りくどい言い方をされるより素直に言われた方がわかりやすくて嬉しいもんさ」
「アリア、行かないでほしい!」
「ディージャンお兄様……」
「俺もだ!
アリアが望むことなら何でもしてあげるから!」
「ユーラお兄様まで……」
「あっちじゃなきゃダメな理由でもあるのかい?」
「いえ、そんなことはないですが……」
単に気楽だっていうだけではある。
今は使用人たちの関心高いし別館ならのんびりしていられるしベッドに寝転がってダラダラしていたってバレる心配は少ない。
「なら居てやってもいいんじゃないかい?」
「……分かりましたわ」
別にこんなはずじゃなかったのに。
そのうち離れることになる家だから都合の良い後ろ盾になってくれればいいぐらいに思っていたのに。
どうしてこうなった。
ゆっくり食べているとディージャンとユーラが甲斐甲斐しく世話を焼いて食べさせてきそうな雰囲気すらある。
「ふう……疲れたわ」
「もうお休みの準備なさいますか〜?」
「少し刺繍の練習をしてから寝ることにするわ」
食事を終えて部屋に戻るアリアの少し後ろをついて歩くメイドがいた。
シェカルテ1人では大変だろうともう1人アリア専属でメイドが付けられることになった。
やや間伸びした話し方をする若いメイドで名前をスーシャウという。
目が細い感じで意図しているのかしていないのか知らないけれど笑っているように見える顔をしている。
彼女はシェカルテの推薦でアリア専属に決まった。
ビスソラダ派閥ではない中立派でありながらアリアのことも悪く言わないメイドだったからだ。
背が低くて小動物のようだけどちょこまかと動いてしっかり働くから悪くない。
むしろ働けば働くほどに小動物感が増す。
気もきくので不満はない。
時折そののんびりとした話し方はムカつくけど個性だと思って受け入れる努力をする。
「今日は何の刺繍をするんですかぁ〜?
お嬢様の刺繍、綺麗で好きなんですよね。
この間いただいたハンカチも他のメイドたちに羨ましがられましたよ〜」
刺繍をしているのはレベルのため。
外に出なくてもできるし誰の目にも不審に映らないからやっている。
暇つぶしにもなるし、もう無心でやっても指先を刺さないレベルにまでなった。
そしてついでに針に関してもう1つレベルを上げておくこともあるのだ。
「他のご令嬢が練習なされるのは正直男ウケを狙ったものであんまり可愛くないのですがお嬢様のは可愛くて素敵ですよ〜」
そりゃ趣味でやってるのだから好きな図柄を刺繍する。
くだらない意味や遠回しなメッセージなど必要なく可愛い図柄を縫い付けられる。
「おかえりなさいませ、お嬢様。
スーシャウ、悪いけれどお茶の準備をお願いできるかしら」
「はい、分かりました〜」
部屋に戻るとシェカルテがいた。
いつもは食後に何かの作業をするのでシェカルテがお茶を用意していてくれるのだけど今日はスーシャウにお願いする。
やることがあったのだろうとスーシャウも疑いもせずに紅茶の準備をしに部屋を出て行った。
「お嬢様、見つけました」
「あら、あったの?」
最近シェカルテもメイドというよりアリアの手足として上手く機能するようになってきた。
プライドも捨ててアリアに仕える道を選んだのだから胆力はある。
アリアも情報集めは自分では限界があるのでシェカルテにお願いすることも多い。
だけどシェカルテでも限界はある。
アリアよりは幅広く情報を集められるというだけでその道のプロでもないので所詮は噂を集めてくるに過ぎない。
情報を扱うプロが必要だとアリアは考えていた。
もちろんアリアにツテなどない。
情報のプロを個人で雇うのも難しい。
ならば情報屋を利用する。
いつの時代どんな時代であっても情報は商品になる。
ただの噂が巡り巡って人を助けることも殺すこともあるように情報は世界を駆け巡り、常に欲する人がいる。
表立って差し障りのない情報が欲しいなら酒場や冒険者のギルドに行けばいい。
しかしもっと大事な情報や離れたところの情報が欲しいなら情報を扱うことを生業としている専門の集団に頼むしかない。
回帰前にアリアは情報屋を使ったことがあった。
情報は生物で必要な情報ほど高いので良い思い出はないが情報屋を使ったことがここで役立つとは思いもしなかった。
シェカルテは聞かれないように念のためアリアの耳に口を近づける。
「ペイガイド、町の反対側に古ぼけた書店があるそうです」
「そう、よくやったわ」
「ありがとうございます」