剣を習おう2
「僕たちと同じ先生ではダメなんですか?」
ディージャンはアリアが前から剣を習いたがっていることを知っている。
危ないからやめなさいと言っても聞かないのならより安全な方法を模索する方がいい。
自分の先生ならば良い先生であることは間違いない。
厳しさはあるが鞭で叩くような理不尽な暴力は振るわない。
「それも悪くはないけどね。
女性に教えるなら女性の先生がいいだろう。
どうしても男とは違うところがある以上それを理解して教えてくれる人の方がアリアのためになる」
ただ口で言うほど簡単なことじゃない。
女性で腕が立ち、その上適切に教えられる人は男性の先生よりも遥かに数が少ない。
そもそも女性で剣を握る人が少なく、そこから腕が立つと言われるほど生き残っていて剣を教える道に進む女性が何人いることか。
その道に進んでも需要がなければ食べていくこともできない。
大きなアカデミーとかになればいるかもしれないがそこらへんに剣を教える女性などいないといってもいいレベルなのだ。
「ひとまず探してみるさ。
それでいなかったら男の先生にも広げて考えてみるのが良いやり方だね」
「そうなんですか」
「ディージャンの心配も分かるが焦ったって良いことはないよ。
今はあんたがしっかりと習いなさい」
「はい……」
「礼儀作法の方は当てがあるから早速手紙送ってみたよ」
「……そうですか」
「そんな嫌そうな顔するもんじゃないよ」
テストに合格したけど身内が言う出来るは何の証明にもならない。
そのために外部から人を雇って習い、その先生がお墨付きを与える。
誰それに習ってお墨付きをもらったということは1つのステータスであるのだ。
高名で厳しく家柄も高い先生にお墨付きをもらえるほど立派な淑女である。
その点ではマーシュリーも悪くなかったのだけど今やマーシュリーのお墨付きを貰ってもそれを口外出来る人はいない。
わざわざ先生で見なくてもその人の動きを見れば分かるのに社交界とは面倒なものであるとアリアはため息をついた。
「あれだけ出来るんだ、すぐにお墨付きも貰えるだろう。
そんな人じゃないが今度鞭で叩かれるようなことがあったらみんなに言うんだよ?」
「もちろんですわ」
「そうだぞ、アリア。
隠そうなんてしちゃダメだからな」
「今度見つけたら俺がその先生のことぶった切ってやるから!」
「ありがとうございます、お兄様方」
「あっ!
お兄……?」
「お兄ちゃん」
「それでよし!」
回帰前には頭空っぽで何も考えていなさそうなディージャンもアリアを疎ましがっていたユーラも今ではアリアに甘々だ。
流石に中身が大人なのでお兄ちゃんと呼ぶのは恥ずかしいので普段はお兄様呼びをしているが2人はお兄ちゃん呼びをしてほしいようである。
だから時々期待には応えてあげる。
「まあアリアについてはそれでいいだろう。
ユーラ、お前ももう少ししたらアカデミーへ入学だぞ」
「はい、分かっています!」
貴族や有力な平民は一定の年齢になるとアカデミーに入る。
半年ほどをアカデミーと寮で過ごして勉学や剣などを学び、家に帰って半年を数年繰り返す。
アリアより1つ年上のユーラは今年アカデミーへ入学することとなっている。
回帰前はアリアもアカデミーに行かせてもらったのだけど結果は散々だった。
学びはあったが現在のアカデミーの目的にもなっている貴族の交流を深めるというところにおいてアリアは全くと言っていいほどダメだった。
今度あったら貴族の連中全員平手打ちにしたいぐらいだ。
もちろん回帰前のアリア自身も平手打ちにしたい。
「来年にはアリアもアカデミーに入学させようと思っているか……」
嫌ならいいぞ。
言葉には出さないがそうした優しさを見せていることに今のアリアは気づけた。
「是非ともアカデミーに行ってみたいですわ」
今回はアカデミーも有効に活用したい。
友達までいかなくても頼りになる協力者は見つけたい。
外の世界を知るのに外の世界の人と仲良くする必要があるし自由に動ける人もなきゃ後々困る。
人付き合いは回帰前だろうが回帰後だろうが得意じゃないけど復讐を成し遂げるためには何だってやってやる。
「じゃあ来年にはアリアと一緒にアカデミーに行けるんだね!」
半年もアリアと別れることになるのかとちょっと落ち込んでいたユーラだったけど少し元気になった。
今年さえ頑張れば来年にはアリアも一緒だと考えるとアカデミーでも頑張れる気がしてきた。
「僕もいるから安心してアカデミーに来るといいよ、アリア」
「兄さん、俺は?」
「ユーラもね」
アリアを介して兄弟仲も良くなった。
ビスソラダに言われて距離を置いていたユーラはディージャンにも良く話しかけるようになって会話も増えた。
フワフワとしてやる気の見えなかったディージャンも柔らかい雰囲気はそのままにしっかりとし始めているように見えた。
もしかしたらこれが本来のディージャンだったのかもしれない。
「それてはそろそろ私も別館の方に戻ろうと……」
「ダメだ」
「何言ってるんだ!」
「ダメだよアリア!」
「ははっ、愛されてるねぇ」
ここまで本邸に居を移していたがそろそろ別館の方に移って悠々と暮らしたいと思っていた。
しかし口に出した瞬間みんなからストップがかかる。