剣を習おう1
「そろそろあんたにも先生を付けないとね」
よりもっとエルダンを見る目は厳しくなる。
一致団結したみんなであったが手伝えることのないディージャンとユーラは勉強や鍛錬にまい進した。
きっと他の人はエルダンをより貶めようと厳しくディージャンやユーラを見るだろうから決して動揺を表に出さず、完璧であれるようにこれまで以上に努力している。
アリアの方は相変わらずゴラックを手伝っていたのだけどそれにはメリンダも加わっていた。
ようやく減らなかったように見えていた仕事も減って少しずつ周りを見る余裕が出来てきた。
アリアの事情は聞いたメリンダだがこうなった以上アリアにもある程度の礼儀作法は出来もらわねばならない。
見たところ出来ているようだがちゃんと先生がいて、先生が認めたという事実もまた社交界では大切なことであった。
「男の繋がりでは厳しいだろうから私が適当そうな先生を呼んであげるよ」
「ありがとうございます、姉さん」
「いいって。
エルダンが健在なら私も旦那にデカい顔出来るからね」
「あの、オバ様」
「なんだい?
何か希望でもあるのかい?」
メリンダは意外とアリアに甘かった。
というか家族全体がアリアに激甘になった。
これまでビスソラダに疎まれたせいで使えない子扱いされて使用人たちに軽んじられていたが今はアリアの一声で家が動きそうなぐらいの雰囲気まである。
使用人たちも態度を変えてアリアに気に入られようと躍起になっていた。
シェカルテの方も毎日アリアについて聞かれるものだから大変らしい。
「私、剣を習いたいと思っておりますの」
以前は言い出せなかったが今ならいける。
アリアはそう判断して切り出した。
今回のことで騎士にまでケルフィリアが蔓延っていることがわかった。
ただのメイドならともかく戦いの心得があるものを相手取るときに策略だけで倒していくのはキツイだろう。
自分で制圧できるだけの実力があれば取れる作戦も広がる。
せっかくオーラも扱えるのだから戦えるようになっていて損なことは一つもないのである。
むしろ全員この手でぶった切りたいから剣を習いたい。
「剣、かい?
……まあ私も小さい頃は棒切れ振り回したものだけど意外なお願いだね」
「今回のことで悟りました。
己の身を守るのは己であると」
「ふむ……一理あるね」
「姉さん!」
実はメリンダも同じようなお願いをしたことがあった。
しかし認めてもらえずよく諭された上に習い事の時間を増やされた。
ゴラックとしてはてっきりそんなことやめておけと言ってくれるものだと思ったのにメリンダはニヤリと笑っていた。
「ただやることもやらずに剣の先生を探してやるわけにはいかないね」
「姉さん!
それでは……」
剣を習わせることもやぶさかではないように聞こえてしまう。
そしてゴラックは分かっている。
マーシュリーとの最後の授業を見ていたのだ、完璧に全てをこなすアリアの姿は当然覚えている。
「ではやることできていたらいいのですね?」
「ふふん、私が認めたら剣の先生を探してやってもいい」
こう言っておけばアリアもやる気になる。
前の先生のことがトラウマになっている可能性もあるのでうまくコントロールできたものだとメリンダは思っていた。
「……はぁ」
しかしうまくコントロールされているのはメリンダの方である。
すでに口に出てしまった約束を撤回などできない。
どの道ゴラックではアリアにお願いされると断ることなどできずに聞き入れることになっていたことは確実だ。
メリンダが受けた条件だしメリンダが探してくれるなら安心だとゴラックはため息混じりに書類仕事に戻ることにした。
「ではどのようにもテストしてくださいまし」
「泣きを見るんじゃないよ?」
ーーーーー
「なんだい、全く!
あんたは知っていたのかい!」
泣きを見ることになったのは当然メリンダだった。
アリアはメリンダの出したテストを全て完璧にクリアした。
全ての所作、知識問題についても文句の付けようもない。
古い作法まで知っていてマーシュリーがとんでもない教え上手だったのではないかとメリンダは思った。
こんなことになるなら安請け合いしなかったのにとメリンダはゴラックを責めた。
話を聞かずに引き受けたのはメリンダなのだから非難されるいわれはないとゴラックは迷惑そうにメリンダに視線を向けた。
「見なさい、食事の作法まで完璧だよ!
くぅ……どうなってるんだい?」
今は家族での食事時だ。
ビスソラダがいる時はマナー細かく見られて勝手な私語厳禁な食事だったがメリンダはそんな堅苦しいこと言わず、自分から普通に話し始める。
アリアに完全敗北したメリンダは少し悔しそう。
最後には意地悪のつもりで聞きかじった王室マナーを出してみたがアリアはひょいとやってみせてメリンダを驚かせた。
回帰前に王室の一員でもあったことのあるアリアにとってマナーテストなどできて当然なのである。
「約束は約束だ。
剣の先生を探しておこう。
ただし礼儀作法の先生も呼んで、箔はつけておきな」
このような潔さもメリンダの美徳とする部分である。
アリアからテストしろと言ったのでもないしズルいとは言わせない。
なんとか剣についても学ぶことができそうだ。
個人的に素振りするだけではもう限界であると感じていた。
体を動かすのは楽しくていいがレベルアップの楽しさがあるとモチベーションが違ってくる。