良い女が助けに来た3
「おじ様」
困り顔のゴラックにアリアは優しく笑いかける。
「大切なのは過去に何があったかではありません。
これからどうしたいかです」
「これから……どうしたいか」
「ディージャンお兄様もユーラお兄様ももう子供ではありません。
何があったのか分かっていて、そして前に進もうとしていますわ」
子供らしい言い方ではないがどうにもこの親子ヤキモキする。
「無くなったものを顧みるより今あるものを大切にしてほしいですわ」
「今あるものか……」
ゴラックが視線を落とすとディージャンとユーラと目が合う。
失ったものは大きい。
けれどそのおかげで気づけたものや手に残っているものの大切さも分かったはずだ。
「私も未熟でお手伝いできることなんて少ないかもしれませんがエルダンのために出来ることはいたしたいと思います。
お兄様たちも同じ気持ちです」
「僕も……エルダンの子です」
「俺だって……!」
「……そうだな」
ゴラックはディージャンとユーラを強く抱きしめる。
「それで良いんだよ!」
もうちょっとくだらない会話続けていたらゴラックのことぶん殴るところだったとメリンダは思いながら部屋に入ってきた。
過去から反省は得てもウジウジと誰の責任だと考えても何も変わらない。
誰かに何かの責任があると見つけようと思えば大なり小なり見つけられてしまう。
なくたってこじつけの様に責任があると言えてしまう。
だが今回誰に何の責任があったとしてその先どうするというのだ。
すでにビスソラダは亡くなりとるべき責任は取ったと言える。
もはや責任を論ずることなどナンセンスだとメリンダは話を聞いて怒っていた。
「お、オバ様!?」
「久しぶりだね、ディージャン、ユーラ!
あんたたちもバカな父親持って苦労するね!」
ディージャンとユーラはメリンダに会ったことがあるので誰だかは分かる。
「手が足りなさそうだから私がこうしてあげるよ!」
メリンダがアリアを抱きしめる。
別に疎外感も感じてはいないがメリンダなりの優しさなのかもしれない。
ただメリンダが抱きしめたかっただけかもしれないが。
「いいかい、これからもあんたたちは生きていかなきゃいけない。
でも周りはそんなに甘い世界じゃないんだ。
エルダンの権威が弱まったとみれば、魔物の様に力を奪おうと群がる連中や騙そうと近づいてくる奴もいるかもしれない。
これからが踏ん張り時なんだ」
貴族の世界は冷たい。
エルダン家での出来事は対岸の火事だと嘲笑い、そして力が落ちたとみるやエルダンから力を奪っていこうとするだろう。
さらにそんな隙を狙って近づいてくる者もいる。
より強い結束がこれから必要になる。
揺らがないことを見せつけて、家の立て直しを図らなねばならない。
「少し手を貸してやるから自分の足で立てる様になりな」
「ありがとう、姉さん。
ディージャン、ユーラ、そしてアリア。
情けない父親かもしれないが共にエルダンを支えてくれないか?」
「もちろんです!」
「俺だって出来るんだ!」
ディージャンとユーラは一度顔を見合わせて力強くうなずいた。
回帰前殺し合った兄弟の姿はもうここにはない。
「……私も父上とお呼びした方が?」
最後に3人の視線がアリアに向く。
「むっ……そういうつもりでは」
「父上が父上じゃなくてもアリアは僕の妹だよ」
「そうさ!
父上は父上じゃないけどアリアは妹!」
「な、なんとも言いがたいな」
父親じゃないのはそうなのだけどそれを連呼されるのも微妙な気分になる。
「まあ……父親と呼んでくれれば嬉しいがそこまで求めるつもりはない。
だがアリア、君もエルダンの一員で、私の家族だ」
まだ父親を亡くしてそれほど時間も経っていない。
引き取りはしたがそれで自分が父親に成り代わろうなど都合が良すぎる。
でもアリアのことはもう家族であると思っている。
仮にアリアがエルダンを嫌ったとしても守っていく、そんなつもりがゴラックにはあった。
アリアも回帰前もう少しゴラックと話しておけばよかったと思ったことはあった。
不器用で距離感の測り方も分からず、アリアとあまり接することがなかったゴラック。
アリアの方も父親を思い出すから避けていて関係が悪くはないが良くなることもなかった。
死の間際にアリアに対して配慮していたことを聞いて回帰前にはひどく後悔した。
「そうですね……お父様は1人だけですわ」
「そうか……」
「ですからおじ様をお父様とはお呼びできませんがパパとお呼びしましょうか?」
「パ……パパ」
「あっ、父上ニヤけてる」
「バカ!
そんなことは」
思わず口元を手で隠したゴラックだったが一瞬早くディージャンはその顔を見ていてしまった。
どんな顔をして良いか分からず口元もモニョつかせてニタリと笑ってしまっていた。
「ふふふっ、あなた意外と悪い女だね?」
「オバ様に影響されてしまったのかもしれません」
「ハッハッハッ、確かに私は悪い女に違いないね!」
「ア、アリア!
ならお兄様ではなくお兄ちゃんと呼んでくれ!」
「なっ、ずるいぞユーラ!」
「ユーラお兄ちゃん?」
「アリア、僕もだ!」
「もう……ディージャンお兄ちゃん」
「こりゃあれだね、魔性の女って奴だ」
ビスソラダも危ない女だと思っていたけどアリアも大概悪い女のようだ。
腕に収まるほどの少女に手篭めにされる弟と甥っ子たちを見てメリンダは大笑いしていたのであった。




