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良い女が助けに来た2

 ゴラックが細かな配慮をしていたかというと肯定しにくいところがある。

 だからアリアは曖昧に笑って誤魔化しておく。


「甥っ子たちのことだって心配さ。


 この年だってお母様が亡くなった時には落ち込んだんだ、あの子たちの心中察するところがあるよ。


 それにお前さん仕事にかまけてあの子たちと向き合っちゃいないんじゃないかい?」


「それは……」


 痛いところをつかれてゴラックがウッとした顔をする。

 図星だった。


 仕事が忙しいと言ってディージャンやユーラとちゃんと話していない。

 そもそも子供のことはビスソラダに大きく任せていた。


 振り返ってみて、子供たちとしっかりと向き合っていたと堂々と言えない。


「私がいくらか手伝ってあげるからちゃんとあの子たちとも向き合いな。


 仕事が溜まっても、家が危機的な状況になっても終わりゃしないけど家族がバラバラになったら終わりだよ。


 それにお前さんがそんなだからビスソラダも寂しくてケルフィリア教になんて手を出したんじゃないかい?」


 グサグサと言葉が刺さる。

 遠慮のない正しい物言いに反論もできずゴラックの顔はなんだか泣きそうにも見えた。


 しかし大人になって、当主になってこのように耳の痛い諫言を言ってくれる人など少ない。

 批判したいのではなく家のことを思って言ってくれている。


 それが分かっているからゴラックも手を止めて少しずつメリンダの言葉を自分の中で受け入れていく。


「……ありがとうございます、姉さん」


 時間はかかったがメリンダの言葉を受け入れたゴラックにはもう迷いは見えなかった。


「そうやってちゃんと他人の意見に耳を傾けられるところは変わらない美徳だね」


「アリアも済まなかったな。


 情けない限りだ……」


「そんなことありませんよ。


 こうしてお仕事を手伝っておじ様がどれほど頑張っているのかよく分かっています」


「本当良く出来た子だね」


 ーーーーー


 アリアも含めてディージャンとユーラもゴラックに呼ばれて部屋に集まった。

 表面上ディージャンとユーラも元気を取り戻したように見える。


 けれど時折暗い顔をしていることはアリアも分かっていた。

 どうしても受け入れられないところや思い出して悩んでしまうところがあるのだ。


 母親を失った気持ちは痛いほどに分かるのでアリアも無責任に忘れろと言えない。


「アリア、父上の仕事は大変じゃないかい?」


「大変ですが充実していますわ。


 お兄様こそちゃんと食べていますか?」


 少しやつれたようなディージャンは心配になる。

 これまで時折会いに来てくれていたのに最近は顔を見せなくなった。


 何かを振り払うように勉強や剣の鍛錬に打ち込んでいるようであった。


「ユーラお兄様もお元気ですか?」


「うん……大丈夫だよ」


 ユーラもすっかり大人しくなってしまった。

 割とヤンチャ目だったのにそんな顔はなりをひそめている。


 回帰前はお家を滅ぼした兄弟だけどこうなると少し哀れにも思える。

 ただ後悔はしない。


 過去に何があろうと変えられないのだから起きたことを反省はしても後悔はしないようにしたいとアリアは思っている。


「遅れてすまないな」


 何となく会話する雰囲気でもなく押し黙っているとゴラックが部屋に入ってきた。


「今日はお前たちとちゃんと話さねばならないと思ってな。


 ディージャン、ユーラ、アリア、済まなかった」


「父上!」


「父上が何を謝るんですか!」


 深々と頭を下げたゴラックにディージャンとユーラが驚く。


「今回のことの責任は私にある」


「そんな……父上のせいではありません」


「いや、己が不器用で仕事が忙しいことにかまけて色々なことから目を逸らしてきてしまった。


 ビスソラダと向き合わず色々なことを任せきりにしてしまった。


 その結果寂しい思いをさせ、彼女の変化に気づくこともできなかった。


 ケルフィリア教に手を出してしまったことも私が彼女に寄り添えていたなら防げていたかもしれない」


 ゴラックが正直に語る素直な思いをみんな黙って聞く。


「もっと少しでもお前たちに心を砕いていたなら……お前たちが母親を失うことが……」


「そんなことない!」


「ユーラ……」


 鎮痛な面持ちのゴラックにユーラがたまらず抱きついた。


「父上も……母上も悪くない!


 悪いのは、みんな悪いのはケルフィリアだ!」


 ビスソラダはケルフィリアのせいか最近の様子はおかしかったが愛してくれていた。

 ゴラックも不器用ながらちゃんと愛してくれていたことを分かっている。


「父上!」


 ディージャンもゴラックに抱きつく。


「僕には母上がなぜあんなことをしてしまったのか分かりません。


 でもそれは父上のせいじゃないです……」


「ディージャン……」


「父上が悪いなら、僕も悪いです」


「お前が悪いなんてことは……」


「なら父上も悪くないです」


 もうすでにディージャンとユーラはケルフィリアを敵だと思っている。

 それにゴラックが努力をしていたとしてもケルフィリア教の毒牙を止められたかは怪しいものだとアリアは思う。


 寂しさからとゴラックは思っているようだけどアリア個人の見解ではビスソラダの欲深さがケルフィリア教を引きつけたのだと思っている。

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