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闇は光である

 朝起きたら大騒ぎ。

 ビスソラダの暗殺、犯人はエルダンの騎士。


 暗殺者を倒したレンドンは一躍ヒーローとなったがそんなことよりもビスソラダが暗殺されたことがひどく騒ぎ立てられた。

 しかしその後の調査でビスソラダのクローゼットの奥からケルフィリア教の信者であることを示す物が出てきてしまった。


 ビスソラダはケルフィリア教であり、正体がバレそうになったからケルフィリア教に暗殺された。

 しかしたまたま通りかかったレンドンが暗殺者を倒した。


 という話の流れが屋敷中を駆け巡っている。

 さらに数人の使用人と騎士が逃げ出そうとして捕まった。


 暗殺に失敗して屋敷の中にもケルフィリアの回し者がいることが判明したためにバレる前に逃げ出そうとしたがゴラックの方が動きが早かった。

 ビスソラダまで関わっているので家の中で話を留めたかったが騒ぎの規模が大きくなってしまった。


 仕方なしにゴラックは教会にある反ケルフィリア教を掲げる監察騎士団に協力を要請した。

 それによってさらに何人かのケルフィリア教まで炙り出されてエルダンは未曾有の危機を迎えていた。


「お兄様、大丈夫ですか?」


 そのうちまた戻るつもりであるが今のところは大人しく本邸で寝泊まりしているアリアはディージャンとユーラのところを訪れていた。

 アリアも一瞬ケルフィリアを信じかけたことにもなっているので調べられるのは当然である。


 ユーラの方にもケルフィリア教の魔の手は迫っていた。

 無垢なアリアと違ってユーラの方にはビスソラダが直々に少しずつケルフィリアを教え込んでいた。

 

 正当な教育との兼ね合いもあるのでゆっくりとしたペースだがユーラもあと少しでケルフィリア教に堕ちるところだった。

 母親が異端な宗教の信者で自分たちを引き込もうとしていて、さらに信者であることがバレて暗殺された。


 まだ子供である兄弟には重たすぎる出来事だ。

 何を悲しみ、何を怒り、何を恨んで、何を受け入れればいいのか分からないでいる。


「アリア……」


 少しやつれたようなディージャンは葛藤していた。

 まだ年上のディージャンは事の大きさをわかっている。


 アリアやユーラをケルフィリア教に引き込もうとしたことは非常に大きな罪であり、罰せられるべきであることは間違いない。

 けれど殺されるまで必要だったのか。


 いくら罪を犯していても母親は母親で理性的なところと本能的なところでせめぎ合っていた。


「俺のせいかな……」


 そしてユーラは後悔していた。

 アリアを庇ったことでマーシュリーのことが明るみに出て、ビスソラダのことまで繋がっていった。


 アリアの責任にしたくないので責任を問うようなことはしないが自分の行動のせいであるかもしれないと感じていた。

 落ち込んだ兄弟はぼんやりと床を眺めている。


 ケルフィリア教が使用人にもいたことでゴラックも疑われていて拘束されている。

 未だにちゃんとした説明もなされないので2人も状況を整理しきれていない。


 ベッドに腰掛けて並ぶ兄弟の前に膝をついてそれぞれの手を取るアリア。


「お兄様たちは悪くありません」


 アリアの声色は優しい。

 大きな声でもないのに静まり返った部屋の中ではよく聞こえる。


「誰のせいでもない、ビスソラダ様のせいでもないのです」


「じゃあ……何が悪いんだよ……」


 今ディージャンとユーラは心の拠り所を無くしている。

 必要な物は心の支え。


「悪いのは……ケルフィリアですわ」


 怒り、恨みは強い支えになる。


「ケルフィリア……」


「そうです。


 ビスソラダ様を洗脳して狂わせ、してはならぬ凶行に走らせた。


 さらにはケルフィリアに関わっているとバレただけで……暗殺までいたしました」


 やったのはアリアだけどアリアがいなくてもその結果に変わりはない。


「全部……ケルフィリア教が悪いのですわ」


 全ての責任はケルフィリアに取ってもらう。

 アリアの言葉が頭の芯に響いてこだまするような感覚に襲われるディージャンとユーラ。


 今言わなくてもそのうちにそう悟る気がするけれどしっかりと根付かせておく。


「ケルフィリアが……悪い」


 ぼんやりとアリアの言葉をディージャンは繰り返す。


「異端で過激。


 さらにはビスソラダ様を弄んで、殺したのはケルフィリアですわ」


「……ケルフィリア、許さない!」


 拳を握りしめるユーラの目から涙がこぼれる。

 まだ子供っぽいところが残るユーラはディージャンよりも早くアリアの言葉に影響された。


 むしろこれまで洗脳しようとケルフィリアのことを教えられてきた分ユーラの怒りは強いのかもしれない。


「世界にはこうした悲しみが溢れていますわ。


 あたかも善良な顔をして人を引き込んで使えないと分かると捨て駒にするのがケルフィリアですわ」


「決して許すことができないな……」


 ディージャンの口からケルフィリアに対する思いがこぼれた。

 2人はケルフィリア教を敵とみなした。


「ディージャンお兄様、ユーラお兄様」


「アリア」


「アリ……ア」


 立ち上がったアリアは大きく手を広げてディージャンとユーラの頭を抱き寄せた。


「母親を失くす気持ちは私もよく分かっています。


 辛かったら泣いてもいいんです」


「そ、そんなこと……」


「いいんです。


 私は年下かもしれません。

 まだエルダン家には相応しくないかもしれません。


 でもこれぐらいはさせてください」


「エルダンに……相応しくないことなんて、ない」


 温かい。

 人の温もりに温もりに触れて、ディージャンも最後まで保っていたところが溶けていく。


「ぐっ……うっ……」


「お母様……どうして……」


 ユーラに続いてディージャンも堪えきれずに涙を流し始めた。


「泣いてもいいんです。


 大事なのはその後にどうするかですから」


 どこまでも優しく心に染みるようなアリアの声と優しく撫でてくれるアリアの手に、もう涙は止まらない。

 この先エルダンは反ケルフィリアの急先鋒となるだろう。


「私もエルダンのため、お兄様たちのために頑張ります」


「ありがとう、アリア」


「俺たちも……頑張るよ」


 カラッポと嫉妬の塊。

 回帰前にはお家を潰すことになった2人であったが今回はきっとケルフィリアにとって大きな敵になってくれる。


 是非とも今回は役立って欲しいものである。

 そう思ってアリアはディージャンとユーラの頭を撫で続けた。


『弁舌のレベルが上がりました。


 弁舌レベル1→2』


『洗脳のスキルが上がりました。


 洗脳レベル1→2』

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