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闇はより深い闇に飲まれて3

 逃してもいいが身バレをした何の能力も持たない女性を匿っておくほどケルフィリア教も優しくはない。

 ビスソラダがいなくなればそれこそ草の根を分けても探されてしまう。


 1番簡単で効果的な方法なのが殺して口を封じてしまうことだ。


「い、嫌よ!


 誰か!


 誰かいないの!」


「こんな夜中に、しかも人が近づかないようにとご当主様がおっしゃられたのです。


 誰も来はしません」


「そんな……わ、私がいなくてどうやってこの家を手に入れようと言うのよ!」


「確かにあなたがいなくては大変になるかもしれませんね」


「そうでしょう!


 それなら……」


「ですが手がないわけではありません」


「えっ?」


「それに少しばかり大変になるだけです」


 もはや何の言い訳も通じない。

 後ろに下がろうとして足がもつれて尻をつく。


「お、お願いよ……」


「死ぬことでケルフィリア様のお役に立てるのです。


 むしろ光栄に思うとよろしいでしょう。


 その前に証拠を消さねばなりません。

 ケルフィリア教に関わるものはどこに隠していますか?」


「い、言うわけないでしょう!」


「……それならそれでも構いません」


 若い騎士は剣を持ち上げる。

 月明かりを反射して剣は無慈悲に光っている。


「後で探せばいいのですから。


 お覚悟……」


「ダメですわ、騎士様」


 ビスソラダが目から涙を流すが若い騎士の感情がそれによって揺さぶられることはない。

 剣を振り下ろそうとした瞬間、若い騎士は脇腹に強い痛みを感じた。


 見るとナイフが浅く突き刺さっている。

 すぐさま振り返った若い騎士は敵の姿を見失ったのかと思った。


「こちらですわ」


 しかし違った。

 少し視線を下げると真夜中の乱入者の姿が見えた。


「ア、アリア……」


「お嬢様……なぜここに?」


 血に濡れたナイフを持って優しく微笑むアリアがそこにいた。


「ごきげんよう、ビスソラダ様、騎士様」


 ご挨拶。

 令嬢のやるドレスの作法ではなくて男性が行う作法で頭を下げる。


 ビスソラダも騎士も状況が分からない。

 アリアがどうしてここにいるのか、どうしてナイフを持っているのか、どうしてこんな状況で笑顔を浮かべていられるのか。


「いけませんわ、騎士様。


 その女を殺されては困りますわ」


「そ、その女……」


 常に伏し目がちで何もできない小娘というのがビスソラダがアリアに抱いていた印象だった。

 けれどアリアは長男の子供であり、エルダンの権力を操りたい家臣たちがアリアに目をつけていることは確実であった。


 だからアリアを離れの屋敷に幽閉し、抑えつけて何もできないままにさせようと考えていた。

 少なくともユーラが大きくなって力をつけてアリアという操り人形だけではどうにもならないぐらいまではそのまま親が死んだことを悲しんでいればいいと思っていた。


 自分のいうことをよく聞くユーラを当主にしてエルダンを自分の思うがままにする。

 そんな計画を抱いていたビスソラダはアリアの変わりようが理解できないでいた。


 最近アリアの様子もユーラの様子もおかしなことには気がついていた。

 だがそれがこんな結果をもたらしたことは知らなかった。


 しかし、自分が温めてゆっくりと進めてきた計画を壊したのがアリアなのであるとビスソラダは本能的に察した。

 急速に物事が動くことになった異常な変数はアリアであった。


「あなたは……何者なの!」


 仮に貴族の教育を受けていたって令嬢がナイフを取り出して騎士を刺すなど聞いたことがない。

 血を見て卒倒してしまいそうな小娘だったアリアにそんなことができるはずがない。


 目の前にいるのに目の前にいるのがアリアだと信じられなくなっていく。


「あら?


 ビスソラダ様、私ですわ。

 アリアです。


 あなた様が散々私の悪口を吹聴して、あれも許さないこれも許さないと邪魔をしてくれたのでしょう」


「何ですって……」


「それよりも、騎士様?


 この女を殺すのは私ですから殺されては困るのですわ」


「何を言っているのか分かっているのですか?」


「分かっておりますわ。


 どの道殺すのでしたら私が手を下しても変わりがありませんでしょ?」


 アリアは軽い足取りで若い騎士の横を通り過ぎてビスソラダの前に立つ。


「まず1人目……」


「オーラ……あなた、まさか!」


 アリアの体から紅いオーラが溢れ出す。

 月明かりしか入らない薄暗い部屋の中でアリアのオーラは輝いて見える。


「全てが失敗でしたわ。


 ケルフィリア教なんてものに落ちたことも、私に手を出したことも」


「な、なにっ、を……」


 ニッコリとビスソラダに笑いかけたアリアは手に持っていたナイフでビスソラダの胸を刺した。

 顔からは予想もできなかった行動にビスソラダはただナイフを刺されるしかなかった。


 ケルフィリア教は許さない。

 ケルフィリア教は根絶やしにしてやる。


 ディージャンとユーラは悲しむかも知れない。

 けれどこの先ビスソラダが生きていて変な希望を抱いたり、再び目の前に現れて2人のことを揺さぶられるぐらいならここで断ち切っておいた方が安心だ。


 ナイフを抜かれてビスソラダがゆっくりと後ろに倒れる。


「何をしている!」


 殺そうとはしていたがその前に聞き出そうとしていたことがあった。

 それに殺した後に偽装するつもりだったのに胸をナイフで一突きにされては考えていた偽装ができなくなった。

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