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闇はより深い闇に飲まれて2

「お兄様!」


 アリアはサッとディージャンの胸に抱きついた。

 わずかに震えるアリアの肩に気がついてディージャンは堂々としていたように見えても怖かったのだとアリアの心中を察する。


 ただアリアは怖くて震えているのではない。

 実は笑いを堪えて細かく震えていたのである。


 マーシュリーはアリアの策略に乗って容易くケルフィリア教のことを白状してビスソラダのことも口にした。

 その上感情をコントロール出来なくて手首を切り裂かれた。


 仮に手が残っても不自由することは間違いない。

 乙女の柔肌を散々痛めつけてくれた罰が下ったのだ。


 アリアはひたすら笑いを堪える。

 ただそうしながらも頭の中では考えていた。


 次はお前だ、ビスソラダ。


 ーーーーー


 噂が広まることを止めるなど出来はしない。

 ビスソラダがケルフィリア教と関わりがある可能性があって部屋に軟禁されていることは使用人の間で噂になっていた。


 人の気持ちなど容易くうつろうものでシェカルテが聞いてみたらビスソラダに従っていた使用人でも怪しかっただの、いつかこうなると思っていたなど口にする人もいた。

 もはや使用人の中ではビスソラダがケルフィリア教であることを前提にして自分たちにも調査が及ぶのではないかと不安になっていた。


 もしかしたら隣にいる人もケルフィリア教なのではという疑心暗鬼すら巻き起こり始めていた。

 マーシュリーも捕らえられて尋問されているらしく屋敷の中の雰囲気はとてもピリついていた。

 

「交代の時間だ」


「おっ、やっとか……こう言うのもなんだが迷惑な話だよな」


 ビスソラダの部屋の前、ビスソラダは誰も許可なく人と合わず外出も禁じられていて騎士がドアを守って見張っていた。

 ただ立っているだけでも楽じゃない。


 夜になって暗い廊下に立っていた騎士たちは交代の騎士と変わって部屋の前を去っていった。

 部屋の監視にあたるのは若い騎士とベテラン騎士の組み合わせで一緒になることも時折ある2人だった。


「ここから夜明けまでか……どうせこんな状況じゃ飲みにも行けないが暇な仕事だよな」


「そうだな」


「……どうした?


 なんか今日はノリが悪いな」


 こうなったらだべるぐらいしかやることがない。

 あまり喋りすぎても怒られるが多少話すぐらいしていないとやっていられない。


 監視のベテラン騎士は相方の若い騎士の顔を覗き込む。

 いつもならもっと口が軽くてこんなくだらない会話にも付き合ってくれるのに今日は口が重い。


「お、おい……なんだよ。


 何か気に障ったのか?


 おい!」


「済まないな……これも命令なんだ」


 怖い目をしているなと思っていたら若い騎士がサッと剣を抜いた。

 ベテラン騎士が侵入者でもいるのかと廊下を見回すが誰もいない。


 そして若い騎士の目は明らかに自分の方を向いていることに気づかないわけもない。

 剣を抜いて怖い目をする若い騎士がベテラン騎士に一歩ずつ近づいてくる。


「なっ……なんで…………」


 そして若い騎士は剣でベテラン騎士の胸を貫いた。

 最後の最後までそうされるなんて思わず抵抗らしい抵抗もできなかった。


 助けを呼ぼうにも胸を貫かれて呼吸もできず声が出ない。

 剣を抜いて音がしないようにそっと床にベテラン騎士を横たわらせる。


「恨むならバレてしまったビスソラダ夫人のことを恨むんだな」


 若い騎士は剣の血を懐から取り出した布で拭くとビスソラダの部屋に入る。


「失礼します」


「……あなたは」


「私はケルフィリア教の命を受けてまいりました」


 若い騎士はケルフィリア教の信者であった。


「ああ……感謝します!」


 若い騎士がケルフィリア教から来たと聞いてビスソラダは膝をついて神に祈りを捧げた。

 このままここで軟禁され、尋問されるなど耐えられない。


 助けが来たのだと思ってケルフィリアに感謝をしている。


「早くこんなところから助け出してください!」


 ケルフィリア教だとバレた以上はここにいられない。

 若い騎士に縋り付いてエルダンからの脱出を懇願する。


 問題はあるだろうがケルフィリア教なら匿うことも不可能ではない。

 エルダンをケルフィリア教に取り込むために努力してきた。


 結果的にマーシュリーがやりすぎたせいで失敗したが責任は自分にはなく、これまでの努力を考えれば助けてもらって当然だと考えている。


「“救済”をして差し上げましょう」


「きゅ……救済?」


 ビスソラダは気づいた。

 もう必要もないはずなのに若い騎士が未だに剣を抜いたままであることを。


 若い騎士がビスソラダを見る目は冷たく、救済という言葉の意味がどのようなものなの理解して背筋にゾクリとしたものが走った。


「ま、まさか……私を殺すつもりなのですか!」


 一気に血の気が引いたビスソラダは慌てて若い騎士から離れる。

 若い騎士はケルフィリア教の信者であり、今この場においては暗殺者でもあった。


 ビスソラダを殺すように命じられた。

 努力はしたかもしれないが結局失敗した。


 ビスソラダはケルフィリア教のために働いてくれたけれど訓練を受けたものではない。

 尋問されたとしたらあっさり口を割ることになる。


 今ここでビスソラダに口を割られてエルダンに調べられるのは避けたかった。

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