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闇はより深い闇に飲まれて1

「それでは本日もよろしくお願いします」


「はい、よろしくお願いします」


 一騒動あった次の日も何も知らないマーシュリーはアリアを教えに家にやってきた。

 いつもなら2人きりで行われる授業だが今日は違う。


 ドアの向こうではゴラックを始めとするエルダンの騎士が待機している。

 中の状況を確認する都合上ドアをうっすらと開けて覗き見スタイルのカッコ悪さがあるのはご愛嬌である。


 マーシュリーと会うのも今日が最後かと思うがそこに何の感慨深さもない。

 これからマーシュリーの人生は転落して行く。


 ケルフィリア教に関わりがある以上最終的には教会に引き渡されて尋問される。

 そうでなくともアリアに暴力を振るったことで責任を追及されて社交界から追い出されることは最低でも決まっている。


 散々叩かれたのだから順当な結末である。

 ただせっかくだから本当のアリアを少し見せてやることにする。


「どうですか、マーシュリー夫人?」


「え、ええ……とても良くできています」


 マーシュリーが調子に乗ってアリアを疑わないようにこれまで出来てはいるがたどたどしさがあるような感じを演出していた。

 そうしたたどたどしさは当然のことながら演技である。


 そのおかげで演技レベルがまた1つ上がったぐらいでマーシュリーは一向に完璧に出来るようにならないアリアに苛立ちすら覚えていた。

 もう演技する必要はなくなった。


 いつまでも下手くそに見せる演技をして時間を引き伸ばさなくても良くなったのだからアリアは完璧に作法を見せつける。

 まだまだレベル的には辛いところもあるが手足に力を入れてレベルで足りないところは根性でカバーしてどこまでも美しく見えるように気を配る。


 たどたどしかったところも、いつも上手くいかなかったところも、まだ教わっていないところもアリアは完璧にやってみせた。

 当然鞭の出番などない。


 マーシュリーはアリアに得体の知れない恐ろしさを感じ始めていた。

 一々マーシュリーを見ては薄く笑うアリアがこれまで教えてきた平民出の少女と同じように見えなかった。


「マーシュリー夫人、先日いただきましたケルフィリア様の証についてお聞きしたいのですがよろしいですか?」


「え、ええ……」


 一通りの作法をやったアリアは最後にスカートの裾を摘み上げ、角度すら見事に礼をする。

 流れるような動作はどこに出しても恥ずかしくないどころかマーシュリーすら見習うところがある。


「ケルフィリア教へはマーシュリー夫人がビスソラダ様をお誘いに?」


「いいえ、逆です。


 夫に先立たれてどうしたら良いか分からなかった私をビスソラダ夫人が正しき方へ導いてくれたのです」


 おかしな質問だと思うがマーシュリーはそれよりもいきなり完璧になったアリアに驚いて深く考えずに答えた。


「ケルフィリア様の素晴らしさを説き、孤独だった私を救ってくれたのです」


 こうして家庭教師としての仕事もいくつか斡旋してもらった。

 マーシュリーはビスソラダにも感謝をしている。


「……ふーん」


「アリアお嬢様?」


 ニコニコと笑顔を浮かべていたアリアから表情が消える。


「マーシュリー婦人は騙されていると言いましたがあなたこそ騙されていますわ。


 あんな卑劣でくだらなくて愚かな神、他にいませんことよ」


「な、なんですって!」


 一瞬にしてマーシュリーの頭に血が昇る。

 他の宗教に比べてケルフィリア教は自分の神を悪く言われることを圧倒的に嫌う。


 過去にはケルフィリア教を全面禁止して罵倒した国の王様をケルフィリア教の過激派が襲撃した事件もあったほどだ。


「こんなもの、こうしてくれますわ」


 アリアは机の上に置いていたケルフィリア教の証を手に取ると床にわざと落とした。

 そして足で踏みつけた。


「なんてことを!」


 マーシュリーは一瞬で激情に飲まれた。

 瞬間的に飛んできた手のひらをアリアは避けることなくまともに頬で受けた。


「この小娘が!」


「マーシュリー!」


 そしてマーシュリーは鞭を取り出した。

 鞭ではなくてもアリアが叩かれた。


 部屋の外で待機していたゴラックたちが飛び込んでくる。

 

「なっ……!」


 部屋に入ると鞭を振り上げた体勢のマーシュリー。

 その瞬間何を考えたのだろうか。


 入ってくるゴラックたちを見て、マーシュリーは次にアリアに視線を移した。

 それはまるでアリアを人質にしようとしているようにディージャンには見えた。


「アリア!」


 ディージャンは剣を抜いてマーシュリーの鞭を持つ手を切り裂いた。

 そのままマーシュリーに立ちはだかるようにアリアの前まで駆け抜けた。


「ぎゃあああ!」


 手首を深く切られてマーシュリーが悲鳴を上げる。

 騎士が落ちた鞭を拾い上げ無理矢理床にマーシュリーを組み伏せる。


「こ、この!


 ケルフィリア様のご厚意を無下にする卑しいクソガキが!」


 痛みもあるがケルフィリアをバカにされたことを怒っているマーシュリーは取り押さえられながらもアリアに暴言を浴びせかける。

 この状況を見て口に出る言葉がそれならケルフィリアなど信じなくて正解である。


「アリア、大丈夫か!」


 安全を確認してディージャンが振り返る。

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