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母よりも悪女たれ9

 ディージャンは盗み聞きをしてしまった立場であるので勝手に言っていいものかも悩んだ。

 とりあえずアリアに話を聞かなきゃいけないと思って、だけどどう切り出していいかも分からないままに時間だけが経っていた。


 アリアが限界を迎えてこんな状態になっていることに気づかず放置してしまった責任が自分にもあるとディージャンは思っていた。

 子供を関わらせていいものがゴラックは悩んだがディージャンがあまりにも真剣な目をしているからゆっくりとうなずいた。


「グヌヌ……」


 一方でアリアも部屋で1人苦しそうな顔をしていた。

 赤いアザが痛むとかそんなことではない。


「か……かゆいですわ……」


 体についた赤いアザは先日イングラッドにお願いして一時的にアザっぽく見えるもので作り出したニセモノのアザである。

 良いものはないかとイングラッドは考えてくれて思い付いたものを持ってきてくれたのだけどなんの副作用もなく肌を赤くはできなかった。


 アザっぽく見える赤い跡の代償はかゆみだった。

 上手く赤くなるのだけどその代わりに赤くなったところがひどくかゆくなるのである。


 かゆみはオーラでも抑えられない。

 別室に連れて行かれたアリアは赤いアザをつけた腕やら上半身やらをかきむしりたい思いで悶えていた。


 お試しで体に塗ってアザを作った時は耐えられると思った。

 ちょっとだったから耐えられただけで身体中にアザをつけるとそのかゆみは涙が出てきそうなほどであった。


「ぐにに……こんなに辛いなんて聞いてないですわ!」


 誰もいなかったら上半身を掻きむしってしまいそう。

 そんなことするとアザだけじゃ済まなくなるので耐え忍ぶ。


 それに今日の計画はまだ始まったばかりだ。


「くぅ……」


 お菓子を食べて紅茶を飲んで少しでもかゆみを紛らわす。


「アリア、入って良いか?」


「あ、どうぞ……」


 かゆいかゆいと言っていたことを聞かれてはいなかっただろうかとちょっと焦る。

 口の中に残ったお菓子を紅茶で流し込んでアリアは立ち上がる。


「失礼するぞ」


 ゴラックは部屋に入ってすぐにアリアの異常に気がついた。

 いつも穏やかで曇りのない笑顔を浮かべていたアリアだったがその笑顔が僅かに歪んでいた。


 ゴラックはツラいアリアが無理をして笑顔を浮かべているのだと胸が痛くなった。

 ツラいのはツラいのだけどかゆくてツラいのだとゴラックは知る由もない。


 結果的に良いようにアリアの笑顔が歪んでいる理由を解釈してくれたゴラックは思わず険しくなってしまいそうになる顔に優しく笑顔を浮かべてアリアの前に膝をつく。


「お、おじ様?」


「アリア……何があったのか私に話してはくれないだろうか?」


 ゴラックの後ろには悲しそうな表情を隠せていないディージャンもいた。


「何と言いましても……何から話していいのか」


「まずはマーシュリー夫人のことから聞かせてほしい。


 彼女は……君に暴力を振るっていたのか?」


 そっとアリアの肩に触れるゴラックが心配そうな色を浮かべた目でアリアを見つめた。


「……マーシュリー夫人は私が上手く出来ないと鞭で叩くことがありました。


 でもそれは私が出来ないからで……」


「叩いていた。


 それで十分だ」


 マーシュリーのことをあえて庇う言葉も口にする。

 真実味とアリアの哀愁がより浮き彫りになる。


 男が剣術を教わるのとは訳が違う。

 体に叩き込む必要がある剣術で体に木剣が当たることと礼儀作法で教えるのに鞭を用いることでは全く必要性が異なっている。


「おじ様……肩が」


「ああ、すまない」


 思わず肩の手に力が入ってしまった。

 ゴラックとしてはなんてこともない力の強さでもアリアの細い体には負担になる。


 そんな子を鞭で叩いたなんてと余計怒りが湧いてくる。


「もう1つ、これについて聞きたい」


 ケルフィリア教の証をゴラックはアリアに見せた。


「はい、こちらはケルフィリア様という神様のもので熱心に祈れば私でも立派な貴族になれるとマーシュリー夫人はおっしゃっていました。


 ビスソラダ様もケルフィリア様を信奉なさっていて、ですので非常にマナーのレベルが高いのだと」


「…………そうか」


 なんということをするのだ。

 まだ何も知らない子供を騙して、礼儀作法を身につけたいと願うアリアの心に漬け込んでとんでもないことを吹き込んでいる。


 ゴラックは今すぐマーシュリーのところに乗り込んで舌を切り裂いてやりたい気持ちに駆られる。


「おじ様?」


 ケルフィリアに様をつけるなんて血反吐を吐きそうだと思うがここはアリアが純粋な心でケルフィリアを信じているように見せかけなければいけない。

 ゴラックはケルフィリア教の証を潰しそうなほどに握りしめる。


 少しだけこんなに怒ってくれることに喜びも感じる。


「父上、1ついいですか?」


「なんだ?」


 これまで押し黙っていたディージャンが口を開く。


「アリアがウソをつく理由はありません。


 僕はアリアの言っていることが本当だと思います。


 ですがマーシュリー夫人は違います」


「……何が言いたい?」


「ケルフィリア教に彼女が関わっていることは間違いないでしょうけど母上が関わっているかはまだ分かりません。


 マーシュリー夫人は嘘つきです。


 アリアを騙すために母上の名前を出したのかもしれないです」

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