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母よりも悪女たれ8

「ありがとうございます」


 アリアは笑顔で褒め言葉を受け取るがその裏にどんな努力があるのかを知っているユーラは複雑そうな顔をしていた。


「あっ……」


 ふとアリアが顔を歪めてフォークを落としてしまった。


「申し訳ありません……」


「俺が拾うよ」


「いいえそんな。


 うっ……」


 床に落ちたフォークを拾おうとしてアリアはまた落としてしまう。

 何かをユーラが察した。


「アリア!」


 ユーラがアリアの手を取って袖をまくる。


「……ッ!


 アリア、これは……!」


「お兄様……!」


「どうした、ユーラ、アリア?」


 アリアとユーラの様子がおかしいことにゴラックが気づいた。


「な、何でもありません!」


 慌てて隠そうとするアリアの様子は明らかに異常である。


「父上!


 もう我慢できません!」


「お兄様!」


「アリア、腕を見せてみなさい」


「あなた?


 何もそんなに……」


「いいから見せなさい」


 もう隠し通せない。

 そんな表情を浮かべてアリアはゴラックに手を差し出す。


「…………アリア、これはどういうことだ?」


 優しく袖をまくったゴラックの目に飛び込んできたのは赤くなったアリアの腕。

 長く筋のようになった赤いアザがいくつもアリアの腕にある。


 より袖をまくりあげると赤いアザは腕に何本もある。

 声を荒げそうになるのを抑えて優しくアリアに問いかける。


「これは、その……」


「アリアを教えているマーシュリーとかいう人のせいです!」


 言い淀むアリアに代わってユーラが怒りの表情を浮かべて答える。


「なんだと?」


「俺、見てしまったんです!


 あいつがアリアの腕を叩いているところを!」


「なんだと?


 話を聞かせなさい」


「あなた……その話は今するものでは……」


「ビスソラダ!」


 ゴラックには珍しい強い言葉にビスソラダがびくりとする。

 ユーラはアリアとマーシュリーの間に何があったのか見たことを正直に話した。


 その間にアリアはメイドに連れて行かれる。

 体の状態を確かめるためである。


「でも……アリアが言うなって……ごめんなさい」


 ユーラは話しながら涙が出てきてしまう。

 どうしようもできない自分が情けなくて、悔しくて、最近仲良くしていたのにあんなになるまで気づかなくて、自分を責める気持ちに押しつぶされそうになっていた。


 そこにメイド長を務めるベテランメイドが部屋に入ってきてゴラックに耳打ちする。

 そして何かを手渡した。


「ビスソラダ……今回のこと、お前は」


「も、もちろん知りませんでした!


 厳しく教えるようには言いつけましたがまさか叩くだなんて……」


「ウソだ!


 母上がそのようにしろと」


「何を言うのですか、ユーラ!」


「アリアが……」


「あの小娘が何を言ったのかは知りませんが」


「もうよい!」


「誰か、ビスソラダを部屋に連れて行け!」


「あ、あなた……?


 どうして、あなた!」


 部屋に兵士が入ってきてビスソラダを連れていく。

 手荒にはできないが当主であるゴラックの命令な以上は多少無理矢理にでもやらねばならない。


 困惑した顔をしているビスソラダの方をゴラックは見もしない。

 ビスソラダは気づいていない。


 メイド長がゴラックに渡したのは子供の手のひらのほどのサイズの丸い金属の板。

 黒く塗ってあり、複雑な模様が彫ってあるそれはケルフィリア教の証であった。


 アリアは背中にも赤いアザがあり、そしてこのケルフィリア教の証を持っていた。

 そしてメイド長が訪ねたところアザはマーシュリーに叩かれたものであり、ケルフィリア教の証もマーシュリーに貰ったものだと告白した。


 しかしそれだけには留まらずビスソラダがケルフィリア教の教徒で、ケルフィリアに祈れば礼儀作法が上達すると教えられたとビスソラダの名前がケルフィリアに関わって出てきた。

 異端な宗教であるケルフィリア教は過激な思想や行動から危険視されている。


 ビスソラダがケルフィリア教と関わりがある可能性が出てしまったのでゴラックもビスソラダを拘束せざるを得なかったのだ。

 アリアの話を全て鵜呑みにするわけにはいかないが少なくともマーシュリーがケルフィリア教に関わっていて、マーシュリーをアリアの先生に推薦したのはビスソラダであるのだ。


「アリアの話を聞こう」


「父上、僕も一緒にいいですか?」


「ディージャン……」


 泣いてしまったユーラは他の部屋に連れられていった。

 これまで黙っていたディージャンは真剣な顔をして同行を願い出た。


「実は……僕もアリアが叩かれているのを知っていました」


「なんだと?」


「でもアリアはエルダンのためとそれを押して授業を受けていました。


 アリアの覚悟を無駄にも出来なくて……」


 アリアはユーラと交友を深めていたが元々アリアのことを気にかけていて仲が良かったのはディージャンの方である。

 ふらりとアリアのところに遊びにきたりもすることがあったディージャンは最近ユーラとアリアが仲良く話していることも知っていた。


 そしてそんな時にユーラがアリアのところに行くのを見てしまい、ズルいとディージャンもこっそり後をつけていた。

 その時にアリアが叩かれているのをユーラが怒っているところを目撃してしまっていた。


 当然怒ってゴラックに報告することも考えたのだけどそこは多少年齢が上のディージャンは冷静だった。

 アリアは必要なことで秘密にしてほしいとユーラにお願いしていた。

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