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母よりも悪女たれ1

 カンバーレンド家のお披露目パーティーから無事帰宅して数日が経った。

 シェカルテはカインと別々に暮らすことになって多少気落ちしていたがこれが弟の成長に繋がると信じて頑張っていた。


 アリアがカンバーレンド家のお披露目パーティーに行ったことはビスソラダにバレていなかったのだが後日カールソンからアリアに対する謝罪の品物が届いてバレてしまった。

 余計なことをしてくれたものだ。


 カインを引き上げられたら困るからだろうとアリアは予想している。

 アリアのところに乗り込んでくることはなかったのだけどまだマナーもなっていないアリアを連れていったことを口実にしてビスソラダはひどく怒った。


 別に苦情を付けられたのでもあちらからの謝罪の気待ちだというのにまるでアリアが悪いかのようにビスソラダが騒ぎ立てた。

 一般の使用人はどんな物がどんな内容で贈られてきたのか知らない。


 だからビスソラダのおかげでアリアはカンバーレンドで大失敗したかのようになっていた。

 訂正して回るつもりもないので構わない。


 ただ気分はよろしくなく、ビスソラダに対する恨みつらみは蓄積されていく。


「それではよろしくお願いいたします」


「よろしくお願いします、マーシュリー婦人」


 そんな中でとうとうアリアに先生が付けられた。

 貴族としてのマナーや礼儀作法を教えてくれる先生なのであるがアリアを見る目はとても良くない。


 どこか見下したような色を見せる冷徹な目をしている。

 男であるゴラックが女性であるアリアのマナーの先生を探すのは簡単ではない。


 アリアがカンバーレンドに行った件もあってゴラックはきっと強く出れない。

 つまりはこのマーシュリーという女性にはビスソラダの息がかかっているのだ。


 あえて適切な令嬢の挨拶ではなくただ頭を下げて挨拶する。

 そうするとマーシュリーの目がさらに険しくなる。


「はぁ……アリアお嬢様、あなたはもうエルダンの一員なのです。


 そのようなことでは貴族としてやっていけませんよ」


 知ってる。

 だが今知りたいのは貴族のマナーについてではなくマーシュリーが何を目的としているかだ。


 ビスソラダの息がかかっている以上ただ大人しく先生をしてくれるはずがない。

 アリアを潰そうとしているのか、それともアリアを支配してしまおうとしているのか。


 自ら出ていくように仕向けたい可能性だってある。


「ええと……どうやったらよいのですか?」


 何も知らない純粋無垢な少女を演じる。


「こう」

 

 マーシュリーがスカートをつまみ、お淑やかに挨拶をしてみせる。

 回帰前礼儀作法を極めたに近いアリアからすればそこそこといったところか。


「え、ええと。


 こ、こうですか?」


 わざと手際悪くモタつき、見よう見まねで間違ってやっているように再現する。


「違います」


「いっ!」


 全くなっていないアリアを見てマーシュリーはどこからか鞭を取り出した。

 そしてアリアの手首を打ち付ける。


 痛みにアリアの顔が歪む。

 本気の鞭ではない。


 馬などの調教に使うものをだいぶ弱くして人にも使えるようにしている。

 この鞭は痛みは強いが跡が残りにくい。


「何をなさるのですか!」


 顔を歪めたアリアを見て側に控えていたシェカルテが割り込む。

 いくらなんでも厳しすぎるやり方に非難の視線を向ける。


「あなたこそ何をするのですか。


 これは教育。


 アリアお嬢様は正当な教育を受けてきませんでした。

 他のご令嬢に笑われないように追いつくためには厳しく教育いたす他にはありません。


 ビスソラダ夫人にもアリアお嬢様がいつ社交界に出ても笑われないように教育することを強く念押しなされました」


「だからって……!」


「シェカルテ」


 鞭で叩くなど非道なやり方を見過ごせない。

 抗議の言葉を口にしようとしたシェカルテをアリアは止める。


「いいんです。


 私が出来ないのが悪いのですから」


 せっかく用意してもらった先生に従うしかない。

 そんな考え微塵もなく、アリアの目の奥に何かの考えがあることをシェカルテは悟った。


 逆にマーシュリーはアリアの従順な態度に嬉しそうに笑みを浮かべた。

 アリアはたどたどしくマーシュリーのマネをして挨拶をする。


「これからよろしくお願いいたします」


 マヌケめ。

 アリアが必死で従っているようにマーシュリーには見えている。


 だがアリアはただで従う女じゃない。

 マーシュリーは知らない。


 アリアが腹の中で怒りと笑いを抱えていることを。

 鞭で叩かれたことは決して忘れない。


 けれどただ少し従順に従う態度を見せただけでほくそ笑むマーシュリーを見て、アリアもまたほくそ笑んでいた。

 利用されていると気づかなそう。


『痛み耐性のレベルが上がりました。


 痛み耐性レベル0→1』


 ついでにレベルが上がるのだから我慢もしてみせる。


「今日は顔合わせ。


 明日から厳しく指導していきますからそのおつもりで」


 少しも悪いと思っていないマーシュリーはさっさと帰っていってしまう。

 いや、帰る前におそらくアリアを上手く操れそうだとビスソラダに報告するに違いない。

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