ブルーアンドホワイト13
「このようなところで何をしているのですか、お嬢様」
中庭にある庭園の花々は美しい。
隅々まで手入れが行き届いていて細やかな心配りが見て取れる。
物言わず、ただそこに美しくいてくれる花は好きだ。
アリアが疲れた精神を花で癒していると後ろから声をかけられた。
また面倒そうなと思いながらも微笑みを浮かべて振り返るとそこにいたのはカールソンであった。
「この庭園は母上が自ら世話をしているんだ。
だからここに母上がいない間も使用人たちが一生懸命世話をしてくれる。
とても綺麗だろう?」
なんで主賓がこんなところにいるのだ。
さっさと会場に戻れ。
そう言う前にカールソンに口を開かれてしまった。
カールソンはアリアの横に来ると花に手を添えてそっと匂いを嗅いだ。
「母上の優しさと気遣いを感じられて僕はここが好きなんだ」
アリアに優しく笑いかけるカールソン。
酸いも甘いも知らない生娘ならその笑顔にやられていたかもしれない。
けれどアリアの中身は一応多少の人生経験のある大人である。
良い顔しているぐらいの感想しか今ところは思わない。
「それでお母様のお花を愛でに中庭に参られたのですね」
「待ってくれ」
なら好きに愛でてくれ。
自分は中に戻るからと行きかけたアリアの手をカールソンが取った。
「なんですの?」
「やはり君は先日カインという子を連れてきた人だろう?」
カールソンは諦めていなかった。
アリアのことがどうしても気になり、中庭に抜け出すのを見て追いかけてきたのであった。
なぜなのかカールソンは確信めいた目をしている。
「なんの話なのか……」
「君はオーラユーザーだろ?」
「さて、なんの話か分かりませんわ」
かなり痛いところを突かれたがアリアは平静を装う。
カールソンの目的もどうしてオーラユーザーなことがバレたのかも分からない。
認めるリスクも大きくてアリアはシラを切り通そうとする。
「赤いオーラ……それがあなたのオーラでしょう?」
「……なぜ」
色まで当てられては誤魔化しようもない。
頭を強く殴れば記憶を消せるだろうかと考えながらアリアは笑顔を消す。
「オーラに対抗するには圧倒的な実力差か、オーラを使うしかない。
そのために人はオーラにさられると備えをしているか、よほど熟練していない限り体が勝手にオーラで抵抗してしまうんだ」
オーラに当てられると防衛本能による一瞬のものであるがそのわずかな一瞬にオーラが漏れる。
よく見ていなきゃ気づけないようなものだがカールソンはカインがギオイルに試されている時に赤いオーラが出たのを見た。
「てっきり君も志願するのかと思ったけどそんなことはなかったし、気になっていたんだ」
カインがお姉さんと呼んでいたしカインの姉だと思っていた。
オーラが使えるなら女性でも大成する可能性はあるしアリアの方も兵士として希望しているのかと思ったが当然そんなことはない。
カインの力強い青いオーラもすごかったが何故か一瞬目に入ったアリアの真紅のオーラが強く印象に残っていた。
アリアが兵士を志願しなかったので見間違いであったことも考えた。
そして今日また燃えるような真紅のオーラを目撃したのだ。
カールソンがお披露目でオーラを放った。
その瞬間誰もがカールソンに目を向けていたがカールソンは自分を見ているお客を見ていた。
アリアにも特に注目はしていなかったのだけど視界の端でカールソンのオーラに反応してアリアの赤いオーラが出たのを確かに見たのだ。
濃くてどこまでも赤いオーラは一目見たら忘れられない。
「仮にそうだとしてなんの御用ですの?」
オーラについてはいつまでも隠し通すことは難しいとアリアは考えている。
どこかでバレてしまうことはしょうがない。
けれどカールソンがその先にどうしたいのかアリアには分からない。
別に確かめずともよい話でアリアがオーラユーザーだから何だというのだ。
「何の用っていうか……そうだな。
僕にはまだ決まった婚約者もいない。
君が良ければ……」
頭にカッと血が上った。
そしてアリアは気づけばカールソンの頬を平手で思い切り叩いていた。
「なっ……!」
掴まれた手が離れてカールソンがふらつく。
オーラを使わないでいてやっただけ感謝しろと思う。
「私がオーラユーザーだからそのようなことをおっしゃられるのですか?」
「それは……」
「自分の家にオーラユーザーを引き込むためにそのようなことまでするのですね?
軽蔑いたします」
惚れたとかではなくオーラユーザーだと知り、婚約者もいないと告げた。
その先のお誘いは何だか簡単に予想できる。
オーラユーザーであるアリアを自家に引き込むための策略、取引である。
オーラが扱えるということにのみ価値を置かれたカールソンの提案にアリアは自分が物扱いされたかのような侮辱を感じた。
マトモな性格をしていると思ったのにもう薄汚れた貴族の考えがカールソンの中にあるのだと知ってアリアは刺すような冷たい目で睨みつける。
カインを預けたのは失敗だったかもしれないとすら思う。
「ち、違うんだ!」
「構いません。
オーラユーザーとなれば誰でも欲しいものでしょう。
ですが私は誰かの物になるつもりはありません」
利用するのはいいけど利用されるのはもう嫌だ。
これ以上会話することなどない。
アリアは踵をかえして中庭を立ち去る。
「違うんだ……」
何と伝えればいいのかカールソンは言葉が出てこなかった。
オーラユーザーであるアリアを側に置きたいと思ったのは確かだけどそれはオーラユーザーだからである。
でもそんな薄汚れた考えからではなかった。
でもどう言おうとオーラユーザーだからということに変わりはない。
虚しく伸ばされたカールソンの手はアリアに届くことはなかった。