ブルーアンドホワイト12
「今回みなさんをご招待いたしましたのは我が息子が社交の場に出ていくことを記念するパーティーを開くためですが理由はそれだけではありません。
カールソン、見せてやりなさい」
「はい、父上」
アリアは事前に予想をしていた。
騎士団の団長を任されるほどに優れた実力者であるなら可能性はあると思っていた。
カールソンの体からオーラが放たれた。
オーラが招待客の間を走り抜けて風が吹いたようにアリアの髪が揺れた。
なぜなのかカールソンと目が合ったような気がする。
黒髪、黒い瞳のカールソンなのだがそのオーラはまるで相反するような純白だった。
整えた髪がオーラの放出で乱れるがそれすらも様になっている。
「噂には聞いていたが……本当だったのか」
ゴラックが驚きに目を見開きながらポツリと呟いた。
見ている人の反応は大きく2つ。
純粋に驚いている人。
こちらが大半を占めていて、若いのに力強く美しいオーラを扱えることに驚いてあるのである。
そして苦い顔をしている人。
こちらは一部の大人たちで理由は様々だ。
カールソンのオーラの公開は単純に親バカだから見せつけたのではない。
武力でのしあがった名家であるカンバーレンド家にオーラを扱える天才が生まれたことを対外的にアピールしている。
優秀な後継者を公表することで大きく周りの家を牽制している。
これからも決して揺るがないのだと無言のアピールである。
おそらくこれからを見据えてのこと。
現在の王には3人の息子がいる。
血筋でいけば第一王子が王になるというのが順当なのだろうけどことはそう簡単にはいかない。
複雑になる政治ゲームの前にカンバーレンドはその存在感を強く貴族の中に印象付けようとしている。
ただアリアの記憶ではカンバーレンドは特定の勢力に与してはいなかったと思った。
もしかしたらどの勢力にも脅かされないことを目的としているのかもしれない。
カールソンの真白なオーラが収まって今度はカンバーレンドと招待客でのご挨拶が始まる。
これ以上ないほどにシンプルなお披露目だったが下手に言葉で飾り付けるより良い。
「久しぶりだね」
「そうだね。
ケミッツー先生の授業以来かな?」
ゴラックとギオイルが挨拶を交わし、ディージャンとカールソンも挨拶を交わして握手する。
「こちらの綺麗なお嬢様はどちらかな?」
そしてカールソンがアリアの方を見る。
「私の姪っ子のアリアです。
事情がありまして今は私が引き取っております」
「そうですか。
カールソン・カンバーレンドです。
どうかお見知り置きを、お嬢様」
カールソンがアリアの手を取って甲に唇を軽くつける。
所作が流れるようで無駄が少なく、礼儀作法のレベルもカールソンは高そうだ。
「アリア・エルダンでございます。
名高きカンバーレンドの才能あるご子息にご挨拶出来る事光栄ですわ」
アリアもドレスの裾を摘んで可愛らしくお辞儀をする。
礼儀には礼儀で返す。
「……その、先日お会いしませんでしたか?」
「いいえ、今日初めてお会いいたしますわ」
カールソンはアリアの目を真っ直ぐに見つめる。
思いがけない言葉にほんの一瞬アリアは固まるがすぐに持ち直して笑顔で答える。
まさかカインを連れて訪ねた時に顔でも見られたのかと心中に不安が広がる。
けれどそれにしてはカールソンの驚きも少ない。
確信を持ってアリアに会ったと言い切れるような様子もない。
フードで顔を隠していたが滲み出る美しさは隠しきれなかったのだろうかとアリアは自然に見える笑顔で乗り切ろうとする。
「この子は社交の場に出るのも初めてですし、公子とは初めてお会いいたしますよ」
ジッと顔を見られて気まずくなってきたところにゴラックが助け舟を出してくれた。
「そうですか……どこかで見たことあるかもしれないと思ったもので」
ニコリとアリアに笑いかけるカールソンを警戒してかディージャンがアリアの前に割り込むように守ってくれる。
少しばかりありがたい。
ゴラックとギオイルがさらに軽く言葉を交わして挨拶が終わる。
この後は貴族同士の交流、食事などを楽しんで程よい時間になったら解散となる。
「疲れましたわ……」
アリアは人のいない場所を求めて中庭に出ていた。
メインとなる挨拶が終わって自由になったらアリアは何人かの貴族の男子に声をかけられた。
アリアは自分自身でもそんなに見た目は悪くないと思う。
そんなアリアにお近づきになりたくて声をかけたり、ダンスにお誘いしてくる子がいたのである。
まだ駆け引きも知らないような子供をいなすのは難しくないが子供が故に空気を読めず引き下がらないこともある。
上手くお誘いを断ってきたが対応するのも面倒で人がいない場所を探して逃げてきた。
こういった時に男性のパートナーが同行しているとか、婚約者がいれば口実に出来て便利なのにとアリアはため息をついた。
あまり長時間会場にいなくてもディージャンあたりに心配されてしまう。
時折戻ってディージャンの視界に映っておかねばならないなとアリアは思った。