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ブルーアンドホワイト11

 みんなはアリアの所作に見入っていて気づいていない。

 エリシアが怖い目をしていることに。


 優しくて穏やかに見えるエリシアであるがその実非常に嫉妬深い。

 他人の才能に嫉妬し、他人の持てる物に執着する。


 自分が一番でなければ気が済まない性格で、それでいながらそんな腹の内を隠すことが上手い。

 これはエリシアにいじめられるようになってからようやく分かったことである。

 

 回帰前に何がエリシアに嫉妬心に触れたのか分からないけれどいつごろからかエリシアはアリアを貶め始めた。

 もしかしたらケルフィリア教の影響だったのかもしれないけれどそれを確かめるすべはない。


 今のエリシアはまだ若い。

 感情を抑えることがまだ甘く、アリアの方が上手くやって注目されることに我慢がならないくて怒りの表情を浮かべている。


「まだ未熟で……そのように見られますと緊張してしまいますわ」


 このまま挑発してもいいけど敵を増やしすぎてもいいことはない。


「エリシアさんの所作が美しくて真似てみたのですけどいかがでしょうか?


 上手くできている……あっ」


 綺麗にカップを持とうと思ったら意外と指が辛い。

 カップを置こうとしたアリアは指がもつれてカップを倒してしまう。

 

 慌ててカップを戻すがこぼれた紅茶がテーブルクスの上を広がってしみこんでいく。


「ああっ!

 申し訳ありません!」


「あらあら……大丈夫ですよ」


 ワタワタとしてみせるアリアを見てエリシアは優しく微笑む。


「失敗は誰にでもありますわ。


 むしろ初めてにしてはよくできていたと思いますわ」


 とたんに機嫌が良さそうになる。


「エリシアさんのようには上手くできませんね」


 困ったように笑うアリアにエリシアは満足そう。

 アリアが紅茶をこぼしたのは失敗ではない。


 故意に失敗したように見せかけて紅茶をこぼしたのである。

 いきなり社交の場に現れたアリアが完璧に振舞ってしまったら悪目立ちする。


 エリシアを目標として綺麗な所作をしたとエリシアを持ち上げて、そして失敗してみせることでエリシアの嫉妬心も鎮火させておく。

 そういえば回帰前のアリアは何もできていなかった。


 だから最初はエリシアに気に入られていたのかもしれない。


「どうやらお時間のようですね」


 会場がざわつきが大きくなってきている。

 どうやら今回のお披露目パーティーの主役が登場したみたいだった。


 お茶会を切り上げてみんなでホールに向かう。


「アリア、こっちだ」


「お兄様」


 1人でいるアリアを見つけてディージャンがゴラックのところに連れていく。

 

「どうだった?」


 やや心配そうな顔をしているディージャンがアリアの顔を覗き込む。

 初めての社交の場、アリアが上手くいったのか気にしてくれていた。


 中には意地悪な人もいて嘲笑にさらされてダメになってしまう人もいる。

 アリアは特にまだ貴族としての礼儀作法を習っていない。


 陰湿な人にいじめられていなければいいがとディージャンはアリアの顔を窺う。


「皆さん良いお方でしたわ」


 もちろん問題などなかった。

 上手く失敗できたのでエリシアのマイナスな関心も避けられた。


 周りにも失敗で印象付けられた。

 こんなところでエリシアに会うことは予想外であったがむしろこのタイミングで会えたのはよかったかもしれない。


 笑顔を浮かべるアリアにディージャンも笑顔になる。

 何事もなかったようで安心する。


 ホールに繋がる大きな階段の前に人が集まる。

 貴族としての格があるのでエルダンは前の方に陣取ることになる。


「カールソン・カンバーレンド……」


 先日カインを連れてきたときには柔和な笑みを浮かべる好印象のある少年だったが階段から下りてくるカールソンはまた別人に見えた。

 髪を整え真剣な顔をしたカールソンに何人もの令嬢が顔を赤くしている。


 確かに顔はいいとアリアも思う。

 家柄もよく、将来の黒騎士団の団長にもなる。


 顔だけじゃなくて他の条件を考えても好条件ないい男である。

 カインに対する対応を考えても性格の良さも評価できる。


「カッコいいだろ?」


 こっそりと隣のディージャンが話しかけてくる。

 カールソンとディージャンは同い年である。


 仲の良い友人ではないが話したことぐらいはある。

 人柄が良くて誰にでも分け隔てなく接するので女性にもモテている。


 剣術の腕も優れているのでディージャンから見てもいい男である。

 せっかくできた可愛い妹であるアリアがどこかに嫁ぐことなど考えたくないと思うが同時に不幸な子なので幸せになってほしいとも思う。


 その点で悪い男に引っかかるぐらいならカールソンに惚れる方がいい。

 家柄的にはない話でもない。


「ええ、とても良さそうな方ですね」


「……そうかい」


 他の令嬢たちとは違って頬を赤らめることもない。

 少し安心したような、それでいながらアリアの将来がちょっとだけ心配になった。


 カールソンに心動かされないならどんな相手が良いのだろう、と。


「皆様、本日はお集まりいただきまして誠にありがとうございます」


 カールソンに続いてギオイルも階段を下りてきた。

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