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ブルーアンドホワイト9

「どう……ですか?」


「そうだ。


 君はこの先どうなりたい?」


 なんてことはない質問のようだが本人の資質を問う大事な質問であった。

 カインの根幹に何があるか。


 疲れ果てて、鈍った考えの中に見える本気がカインの心の芯である。


「強くなりたい……」

 

「強く?」


「俺は……大事なものを守れるほどに強くなりたいです!」


 カインの目に宿る強い意志の光。

 能力は決して高くない。


 これまで体を鍛えてこなかったものの中でも低い方である。

 でもカインは諦めず、常に上に挑戦しようとし、目の光を消すことがなかった。


 大切なものを守るために強くなりたい。

 ありがちな考えだけどシンプルで良い考えだ。


「では最後に……」


 ギオイルが剣を抜いた。

 次の瞬間ギオイルの体からオーラが放たれた。


 グレーカラーのオーラがカインに襲いかかる。

 離れて見ているアリアやシェカルテにもよるその圧力が感じられて、シェカルテはその不思議な圧力にフラリと後ろに下がる。


「ほう……」


 カインはとっさに自分もオーラを出して抵抗した。

 カインから放たれる青いオーラとギオイルのグレーのオーラがぶつかり合う。


 まるでカインをオーラごと押し潰そうとしているようだ。

 苦しそうな顔をするカインだけど諦めない。


 流石に子供をいじめすぎではないかとアリアが声を上げようとした瞬間、ギオイルはオーラを引っ込めて剣を鞘に収めた。


「カイン!」


 倒れそうになるカインにアリアが駆け寄って支える。


「お姉さん……僕、頑張ったかな……?」


「ええ、頑張ったわよ。


 この性悪貴族があなたに意地悪しすぎなのよ」


 ちゃんと性悪だと聞こえるように言った。

 確かにやりすぎだった感じはある。


 息子であるカールソンも非難するような視線を向けているしギオイルも何も言い返せない。


「それでカインは合格ですか?」


 これで合格じゃなかったら後で覚えてろよとアリアはフードの奥で睨みつけるようにギオイルに視線を向ける。


「合格だ」


 正直な話オーラを見た時点で残りの試験など見せかけのようなものであった。

 能力としての結果に問題はあるけれどそれは追々鍛えていけばいい。


 そして性格面、やる気については申し分ない。

 立ち向かう意志も固く、諦めない姿勢はこれからカインを強くしてくれる。


 そしてただ強くなりたいのではなく目的をもって強くなりたがっている。

 これまで見てきた中でもトップクラスの将来性を秘めていると断言してもいい気分のギオイルであった。


「良かった……」


 ここまでして不合格じゃカインも報われない。


「立てるか?」


「は、はい」


 カインは最後の力を振り絞って立ち上がる。

 オーラも使ってしまって体の中からもう限界が近い。


「名前を」


「カイン・ヘカティアンです」


「カイン。


 君のことを私たちカンバーレンドは受け入れよう。


 共に切磋琢磨し、意思を持って剣を握り、善なる心を持って悪と戦うのだ」


 もう立っているだけで精一杯のカインの肩にギオイルは剣をそっと当てた。


「今この時よりカイン・ヘカティアンは我がカンバーレンドの一員だ」


「はい……ありがと…………ございます」


 カインは気を失って倒れる。

 これで正式にカインはカンバーレンドの兵士となった。


 オーラを見せつけた以上カンバーレンドの方でオーラの先生を探し出してオーラの指導をつけてくれるはずだ。

 少し休んで起きたカインとシェカルテは別れの挨拶を交わす。


 一生の別れではないが簡単に会えない距離にはなる。

 カンバーレンドについて領地に帰ることになるとしばらく会えないこともあり得る。


 涙ながらにカインを強く抱きしめて持ってきたカインの荷物も預けていく。


「お姉ちゃん、お姉さん、俺頑張るから。


 絶対に強くなってお姉さんを守れるような男になるから」


 多分回帰前にはいなかった存在のカイン。

 この先どうなるのか誰にも予想できない。


 出来るなら強い男になってくれればとアリアは思う。


「待っているわ」

 

 最後にそっとカインの頭を撫でてアリアとシェカルテはカンバーレンドの屋敷を後にした。

 カインはカンバーレンドに所属することになった。


 となるとカインはアリアの側からいなくなる。

 レンドンとヒュージャーにどう説明するか悩んだ。


 けれどどう説明しても疑問点は拭えない。


「あら、そんな子最初からいませんでしたわ」


 この先にカインの話をされても困る。

 だからアリアはカインは存在しなかったことにした。


 紅茶を入れ直し、少し減った量でレンドンとヒュージャーの前に置き直しておく。

 アリアはその横で何事もなかったかのように紅茶を飲んだ。


 起きたレンドンとヒュージャーはいきなり時間が飛んでいることを疑問に思い、そしていたはずのカインがいなくなっていることにも気がついた。

 アリアは平然とした顔でカインなどいなかったとのたまった。


 あまりにも堂々とした態度。

 荷物もなく、不思議な睡眠の後だったのでもしかして夢だったのかと自分を疑う。


 少し暗いようなシェカルテも知らないと言う。


「なんですか?


 ではあなたたちは身分も確認していない子供を勝手に同行させたとおっしゃるのですか?」


 うっ、と2人はなる。

 実際にカインのことをゴラックにどう報告したものかと少し頭を悩ませていた。


 存在が消えてしまった。

 アリアもシェカルテも知らないというし、いた証拠もない。


 レンドンとヒュージャーは猛烈な違和感に襲われながらもどうしようもない。

 カインについて咄嗟のことでアリアに押し切られてしまい、確認等甘かったこともあるのでそこを詰められると弱い。


 真面目な2人は悩んだのだがアリアを問い詰めるわけにもいかなくて、気持ち悪さを抱えながらもカインのことは忘れることにしたのであった。


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