ケルフィリア教掃討作戦6
「お任せください!」
ギアラがケルフィリア教の聖騎士に切りかかり、シェラオリアルとアリアは倉庫の中に足を踏み入れる。
倉庫の中は静まり返っていて、やや埃っぽい。
あまり綺麗にはされていないようだった。
物が雑多に置いてあって視界が悪い。
どこにマルエラがいるのか想像もできない。
「暗いな」
小さな薄汚れた窓から入る光だけではゴチャついた倉庫の中を照らすのに足りない。
シェラオリアルが手を振ると剣が飛んでいって天井に大きな穴を開ける。
「貴様がもう一人の聖騎士か」
天井に空いた穴から光が差し込む。
黒い鎧の騎士が差し込む光の中に歩いてきて、シェラオリアルは冷たい視線を向けた。
「早く終わらせよう」
挨拶を交わす関係ではない。
シェラオリアルが聖騎士に向かって剣を飛ばした。
聖騎士は赤黒いオーラを身にまとうと飛んでくる剣を自身の黒い剣で弾き飛ばす。
剣同士がぶつかって火花が散る。
「それで終わりではないぞ?」
弾き返された剣は空中でピタリと停止し、再び切先を聖騎士に向けて飛んでいく。
聖騎士は地面を蹴ってシェラオリアルに向かって走り出す。
「そうはさせませんよ!」
オーラを解放したジェーンが聖騎士の前に飛び出した。
聖騎士は振り下ろされた剣を防ぎ、そのままクルリと一回転して横振りに剣を繰り出す。
「ぐっ!」
「ジェーン!」
噴き出すような赤黒いオーラの力は凄まじく、防御したのにジェーンの体がぶっ飛ばされる。
「ふっ、私に接近戦を挑めば勝てるとでも?」
シェラオリアルは荷物に叩きつけられる寸前のジェーンを魔法で止めた。
ふわりと床に下ろしながらも剣を飛ばして聖騎士を攻撃するけれど、聖騎士は剣を回避してそのままシェラオリアルに迫る。
仮に近づかれようともやることは変わらない。
シェラオリアルは複数の剣を巧みに操って聖騎士と戦う。
腕の動きにとらわれないシェラオリアルの剣は力の強い聖騎士の攻撃も柔らかく受け流す。
だが聖騎士も剣のレベルが相当高いようで何本もの剣を完璧に対処してみせている。
見ているだけでも剣術のレベルが上がりそうな戦いであるが、ボーッとしている暇はない。
本来ならシェラオリアルが聖騎士を素早く処理するはずだったのだが、聖騎士の実力が思っていたよりも高い。
「ジェーン、ノラ様、行きましょう」
マルエラを助けられるかどうかは一分一秒を争う。
リスクはあるけれどマルエラを探さねばならないとアリアは動く。
聖騎士との戦いに割り込んでもシェラオリアルの邪魔にしかならないと判断したのである。
「マルエラ卿はどこにいるのでしょうか……」
倉庫の奥までやってきたけどマルエラの姿はなかった。
予想はしていたが馬鹿正直に倉庫の奥にいるわけじゃなかった。
「どこかに地下に繋がる階段があるのでしょう」
ケルフィリア教のみならず何か秘密の活動をしている人たちはよく地下を使う。
人目につかず、探されても見つかりにくい地下は秘密の活動にピッタリなのである。
少し前に襲撃した拠点にも地下があったことを考えるにどこかに地下室があるはずだとアリアは推測していた。
「けど地下の扉なんてどうやって見つければ……」
「向こうです」
「えっ?」
キョロキョロと床を眺めていたアリアが歩き出してノラとジェーンは驚きながらもついていく。
「ここですね」
アリアは剣を抜くとオーラを込めて床を切り付ける。
すると床板の一部が切れて中から階段が現れた。
「こんなところに……」
「どうして分かったの?」
ジェーンとノラはアリアが階段を見つけたことに驚いている。
とうとう見えないものを見る能力まで身につけたのかとジェーンは思っていた。
「ホコリです」
「ホコリ?」
「この倉庫手入れが全く行き届いていません。そこら中分厚いホコリが溜まっているのは見て分かるでしょう?」
「確かに……」
少し動いただけでホコリが舞うぐらいに倉庫はホコリだらけであった。
「けれどもそんなホコリが薄いところ、無いところがある」
アリアは階段に視線を向けた。
階段から少し離れたところは白くホコリが溜まっているのに階段の周りの床にはホコリが薄くなっている。
「つまりここは人がよく通る場所になっているのです」
人が動けばそれだけホコリは溜まりにくくなる。
アリアは床に溜まったホコリの状態から階段の位置を推測した。
倉庫の奥は足跡が残るほどにホコリが溜まっていたので少し戻り、ホコリが薄く見えるところを辿ってきた。
階段の周りは明らかにホコリがなく、ここに何かがあると言わんばかりだったのである。
「何かを隠すなら手入れもちゃんとするべきですね」
倉庫として使われていないのだろうが秘密基地として使うなら倉庫もその一部としてちゃんとすべきである。
ジェーンを先頭にしてアリアたちは階段を降りていく。
階段にはあまりホコリが溜まっていない。
やはり人の出入りがあるようだとアリアは思った。
「チッ……いい加減どこまで知っているのか吐くんだ!」
「フッ……何をされようとも私は口を割らない!」
「……この声はマルエラ!」
階段を降りていくと声が聞こえてきた。
マルエラともう一人男の声で、アリアたちは気配を殺しながらも足を速めて階段を降りる。