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ブルーアンドホワイト7

 紅茶を甘くしたのも睡眠薬の苦味を隠すためだった。

 多少手荒な方法ではあるが寝て起きたら事が済んでいるはずだ。


 人に道を聞いてカンバーレンド家に向かう。

 宿から遠くもなくカンバーレンドの屋敷に着いた。


 しっかりと塀があって兵士が門を守っている。

 フードを深く被って顔を隠したアリアを先頭にカンバーレンドに近づいていく。


「何か御用ですか?」


 怪しい風体の3人組だけど子供2人とあってはそんなに警戒もしない。

 近づいてくるアリアたちに門番が声をかけた。


「カンバーレンドでは常に門を開き有望な若者を受けていれていると聞きました」


 カンバーレンド家では若い才能を募集している。

 他の家では年1回、あるいは数年に1回、下手すると紹介やスカウトでしか兵士や騎士を募集しないところもある。


 しかしカンバーレンド家は常時兵士となる人を募集している。

 厳しいテストが待ち構えているので楽に入れるものではないが基本的にはいつでもそのテストを行なってくれる。


 ちなみにアリアのいるエルダンでは2年に1回の募集である。


「1人見ていただきたい人がいるのです」


 だからここまで来ればもう問題もないと思っていた。


「申し訳ございません。


 現在募集は停止しております」


「な、なんでですか?」


 予想外の言葉に驚くアリア。


「現在カンバーレンドのお跡継ぎであらせられますカールソン様のお披露目パーティーの準備中でございます。


 そのために忙しく、警備などの関係もありまして停止しているのです。


 申し訳ございませんがまた後日お越しになられてください」


 それじゃ遅い。

 アリアはフードの下で顔をしかめる。


 もう睡眠薬という手も使えないだろう。

 ゴラックが来てしまえば自由に出歩くことなど出来なくなる。


 今でなければならないのだ。


「そんな……どうにかなりませんか」


 食い下がるアリア。


「申し訳ございません」


 しかし門番は首を振ってダメだと言う。

 パーティーのために募集していないだなんて予想外。


 アリアは焦る。


「今日じゃなきゃダメなんです!


 お願いです。

 どうにかなりませんか?」


「そう……言われましても」


 困った顔をする門番。

 末端の兵士なのでどうにかする力もない。


「上の方にご確認願えませんか?」


 門番じゃ話にならない。

 1人ぐらいなら特別に見てもらえないかと説得を試みる。


 なんなら泣く用意もする。


「いつでも門を開き、人を差別せずに見てくださるのがカンバーレンドではなかったのですか!」


「う、ううむ……」


「私たちが卑しく見えるからですか……」


 少しやり方を変える。

 カンバーレンド家の人は貴賤で人を差別をしてはならないと教育される。


 今は目立たぬように地味な格好をしているのでアリアたちは貴族には見えない。

 せっかく門を叩きに来たのに見た目で貴族ではないから追い返すのかと論点をずらして話を押し通そうとしてみる。


 困惑した顔をする門番。

 こんな様子を町の人に見られるとまるで門番が人を差別して追い返しているように見えてしまう。


「カンバーレンドは嘘つきなのですか!」


「そんなことはありません。


 ですが、今は……その」


「どうかしましたか?」


 もうちょっと押せば上司に聞くぐらいはしてくれそうだ。

 そう思ったアリアがもっと押そうとした瞬間門の中から声が聞こえてきた。


 まだ声変わり前の男のような声に聞こえる。


「カールソン様!」


 門番が慌てて振り返るとそこに男の子がいた。

 真っ黒な出立ち。


 髪も瞳も黒く、キリリとした端正な顔立ちをしている。

 アリアはパッと回帰前に見た戦争からの凱旋の光景を思い出した。


 後に騎士団長となるカールソンはその時に戦功を上げて若い女性の黄色い歓声を浴びながら城へと向かっていた。

 無表情だけど軽く手を上げて声に応える様子は印象に残っていた。


 まだまだ幼い顔をしているがその時の面影はあって誰なのかすぐに分かった。


「我が家が嘘つきだと言われているように聞こえましたが?


 何があったのか説明していただいてもいいですか?」


「ええと、それは……」


「カンバーレンドではいつでも門を開いていると聞いて伺ったのです!


 今日は無理だから帰れと言われて……ですが今日しか時間がないのです」


 これはチャンスだとアリアは思った。

 門番が答える前にカールソンに聞こえるように声を出す。


 なんなら上司中の上司といえるカールソンが許可してくれれば問題なく入れる。


「兵士希望の方ですか」


「はい……しかし今はパーティーの準備中で……」


「いれてあげてください」


「ですが」


「責任は僕が持ちます。


 せっかく来て下さったのですし、今日しか時間がないと言うのなら受け入れてあげましょう」


 優しく微笑んですぐに判断を下す。

 渋る門番にも自分の責任だと告げて角が立たぬように配慮している。


「どうぞ。


 お入りください、お嬢様」


 門番が当主の息子に逆らえるはずもない。

 軽くため息をついた門番は門を開けてアリアたちを中に通してくれた。


 涙を見せる必要がなくなって助かったとアリアは思った。


「テストを担当している人を呼んできますのでこちらでお待ちください」

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