ケルフィリア教掃討作戦4
「ふむ……」
引き下がるつもりもなさそう。
「まあいいだろう。自分の身は自分で守ることが条件だ」
シェラオリアルはフッと笑った。
こんなに熱い目をされてはこれ以上の説得も無駄だと悟った。
「やりましたね、ノラスティオ様……」
「ただしお前はダメだ」
「えっ!?」
シェラオリアルはユレストを指差した。
てっきり自分もいけると思っていたユレストは驚いてしまう。
「ノラスティオ王子は戦えるだろうがお前は戦えないな?」
ユレストは頭を使った作業タイプであり、腰に剣すら差していない。
それだけでなく体つきを見れば普段から鍛えているかどうかもシェラオリアルには分かる。
ノラはいいだろう。
ただユレストは戦いに連れていける水準にない。
「だからお前はダメだ」
「ですが……」
「わがままを言うのなら二人とも連れていくことはない」
「うっ……」
今言い争っている時間もない。
シェラオリアルが殺気のこもった魔力を差し向けるとユレストは顔を青くして一歩下がる。
「……ノラスティオ様とエルダン嬢に怪我をさせないようにお願いいたします……」
「アリアは守ろう。ノラスティオ王子は勝手についてくるのだから保証はできないな。自分の身は自分の力で守ることだ」
「分かりました。自分の身も……アリアのことも守ってみせます」
「ふっ、そもそも危険な目に遭わせるつもりもないけれど……いざとなったらアリアを頼むよ」
「なぜ私は守られる前提なのですかね?」
アリアは呆れたような顔をする。
「そりゃあ私のお気に入りだからな」
シェラオリアルは左手でアリアの頬をそっと撫でる。
思わず惚れてしまいそう、そんなカッコいい仕草であった。
「怪しい倉庫を見つけました!」
ロイヤルナイトの一人が駆け寄ってきてシェラオリアルの前で膝をつく。
シェラオリアルがノラの相手をしている間にも外ではロイヤルナイトが動いていた。
ロイヤルナイトがリラフからさらに話を聞き出して倉庫を特定していたのである。
「いくぞ。マルエラを助けに行かねばならない」
「お二人ともどうかご無事で」
「ノラ様に守っていただきますから問題ありませんわ」
「行ってくるよ、ユレスト」
ーーーーー
すでに騒ぎは広まっている。
北の倉庫の拠点にも襲撃の報告が伝わっていてもおかしくない。
ゆっくりと向かっている余裕などなく、兵士たちは急いで倉庫に向かっていた。
逃げる者がいないようにと先行してシェラオリアルたちとロイヤルナイトは倉庫に向かっていて、それについていくアリアとノラ、ジェーンの姿にロイヤルナイトたちも内心では感心していた。
宿から北に行ったところにはいくつか大きな貸し倉庫が密集している場所があった。
そこがリラフの言っていた倉庫だろうということであった。
ただどの倉庫をケルフィリア教が拠点としているか分からない。
「どうなっている?」
「今のところ人の姿はありません」
「散開して逃げる者がいないか警戒しろ。ひとまず大きな道だけでもいい。兵士たちが到着したら交代、倉庫を調査していくぞ!」
今飛び込めば人が足りなくて逃げられてしまう可能性が出てくる。
魔物がいる可能性も排除できるものではないので、先にきたロイヤルナイトたちに倉庫から出てくる人がいないか見張らせる。
「倉庫の管理者に連絡は?」
「すでに取ってあります。信頼のできる借り主もいれば全く素性も分からない借り主もいます。管理としては金もらえればいいような乱雑なものでした」
「怪しい倉庫は?」
「ピックアップしてあります。今のところ借り主が分からない倉庫が三つ」
「三つ同時に襲撃する」
兵士が到着するまでの間に情報をまとめて作戦を考える。
兵力を分散させるリスクはあるがやはり逃げられるリスクというのも天秤にかけなきゃならない。
倉庫同士は近いので兵力を分散させてもすぐに助けに駆けつけられるので同時に襲撃することにした。
「女王様!」
「来たか。この倉庫街全体を封鎖しろ! 中に入ろうとするものも出ようとするものも一人も通すな!」
「はっ! 分かりました!」
駆けつけた兵士たちは息つく暇もなく倉庫に繋がる道を全て封鎖するために動き出す。
「やはり兵力が足りないな……」
シェラオリアルが顔をしかめる。
他にも襲撃すべき拠点があったためにロイヤルナイトと兵士を分けている。
そもそもその前に内部にケルフィリア教のスパイがいる可能性があって炙り出しも行っている最中であった。
何もかも足りていない。
「シェラオリアル様!」
「む? マーシー!」
兵士が封鎖に回って、ロイヤルナイトたちが戻り始めていた。
完全な封鎖のためにも兵力が足りていないと思っていたら追加で兵士がやってきた。
別の拠点を襲撃していたロイヤルナイトが助けに駆けつけたのだ。
「遅くなり申し訳ございません」
「いや、このタイミングで来てくれて感謝する。疲れているかもしれないがもう少し働いてもらうぞ」
「休むつもりならここに駆けつけてはいません」
「ふっ、そうか」
さすがはロイヤルナイトであるとアリアも感心してしまう。
絶対的な忠誠心と鋼のような意思を持っている。