ケルフィリア教掃討作戦3
「答えろ。マルエラはどこにいる?」
目に見えない力が働いて縛られたリラフの顎が持ち上がる。
リラフの目の前には冷たい目をしたシェラオリアルが立っていた。
シェラオリアルが魔法でリラフの頭を動かしたのだ。
「はっ……なんのことか……ぐああああっ! なにを!」
シェラオリアルがひょいと手を動かすと後ろで縛られたリラフの腕がねじれて骨が砕ける音が響く。
「手足は四本ある。私と違ってな。後三本。慎重に答えろ」
痛みにリラフの目から涙が流れるけれどシェラオリアルはは冷たい態度を崩さない。
普段は温和で優しい人であるけれど敵に対しては冷酷無情で容赦がない。
もはやリラフがケルフィリア教であることは間違いないのでシェラオリアルがリラフに対して国民を守る女王の姿を見せることはないのである。
こうした姿もまた美しいとアリアは思う。
抵抗があるだろう他人の手をねじ折るなど簡単なことではない。
流石の魔法の技術と力強さである。
「こ、こんなことをして……ぎゃああっ!」
「後二本だ」
今度は逆の腕がねじれる。
この人なら母になってもいいかもしれないとアリアは本気で思った。
「もう一度だけ聞く。マルエラはどこにいる?」
激しい痛みによる涙と脂汗でリラフは顔面がぐちゃぐちゃになっている。
「答えないか」
「こ、ここじゃない!」
足にグッと力がかかり、折られると思ったリラフは叫ぶように答えた。
「じゃあどこにいる?」
「…………それは……」
「このままでは私の政務も溜まる一方だ」
「ああああ!」
右足がねじ折られてリラフは絶叫する。
見習うべきためらいのなさである。
「残り一本だ」
最後の足まで折られたら次はどうなるのだと聞く余裕はリラフにはない。
「ここから北に倉庫がある……その地下に……」
「誰か見張りは?」
「いる……聖騎士が二人……」
「聖騎士だと?」
聖騎士とはその宗教において信仰心と力を認められて信仰や信者を守る役目を任された人のことである。
ケルフィリア教だって宗教な以上聖騎士と呼ばれるような人が内部には存在している。
何が聖騎士だと鼻で笑いたくなるが自分たちでわざわざ悪騎士と名付ける必要もない。
聖騎士ということはそれなりに実力のある人がその拠点にはようだ。
「地下を発見しました! マルエラ卿はいません!」
宿の中を捜査していたロイヤルナイトが報告に飛んでくる。
地下に隠されていた部屋を発見したけれどマルエラはそこにいない。
リラフの言うようにここには捕えられていなかったのである。
「このままもう一つの拠点に向かう! 一部のものは現場の保全、調査を継続、残りの者はこのまま次に行くぞ!」
行動は迅速に。
ケルフィリア教に調べが入ったことはすぐに相手に伝わる。
情報が伝わりマルエラがどうにかされる前に行動しなければならない。
「女王様!」
「どうした?」
「怪しい者がおりました!」
「怪しい者? 連れてまいれ!」
「はっ!」
見ると日が出てきて人通りも増えてきている。
宿が騎士に封鎖されれば目につくので人が集まってきている様子であった。
「あっ!」
「君は……」
「ノラスティオ様、何をなされているのですか?」
怪しい者、ということで連行されてきたのはノラとユレストであった。
なぜこんなところにいて、なぜ怪しい者として捕まっているのかアリアは驚いていた。
「それはその……アリアのことが気になって」
ノラはひっそりとアリアと国に帰れないかな、なんてことを考えていた。
そしたら魔物の事件が起こった。
アリアのことを心配していたがどうやら無事らしくホッとした。
同時にアリアがシェラオリアルに養子として誘われているということも聞いてしまった。
アリアは城に留まっているしどうしたのだろうと気になっていたところで朝の散歩をしていたユレストがアリアがシェラオリアルと一緒にいるところを目撃したのである。
ノラにそのことを伝えるとノラはこっそりとアリアの後を追いかけた。
そして宿で騒動が起きていたので何をしているのか確認しようとウロウロしていたら騎士に見つかってしまったのだ。
「お帰りください。あなたのような方が関わることではありません」
ノラは他国の王子である。
危険に巻き込むわけにはいかないとシェラオリアルは帰そうとする。
「ぼ、僕も手伝います!」
けれどノラは食い下がる。
アリアが関わっているのなら引けない。
「私たちが何をしているのか知っているのですか?」
「そ、それは……」
「エ、エルダン嬢はよいのですか?」
「アリアは私が許可した。だからいいのだ」
「エルダン嬢は我が国の貴族です。たとえ女王様が許可なされたとしても安全であるのか確認する義務が王子にはあるかと思います」
ユレストがノラの意図を汲んで必死に説得を試みる。
王子としてノラが自国の臣民の安全を確認する必要がある。
やや詭弁であるものの本来必要ないアリアを連れて回っている以上ユレストの言葉も否定しにくくはあった。
「王子として民を守るのも仕事ですからエルダン嬢を連れていかれるのならノラスティオ様も同行すべきです」
たとえ理論的に無茶があっても堂々と言えば多少の説得力が生まれるものだ。
正義感を持ちながら意見が通らないだろうと卑屈になっていたユレストもだいぶ変わったものであるとアリアは少し驚いた。