マルエラがさらわれた理由2
「我が国でケルフィリア教が何をしていた?」
カロンストナにもケルフィリア教はいるだろう。
しかしカロンストナ内でのケルフィリア教の力は決して強くない。
女性を国王とするのにもやや宗教的な側面もあり、ケルフィリア教に落ちる人も多くはないだろうとシェラオリアルは思う。
カロンストナで無理に活動を広める必要性はないはずなのだ。
「……カロンストナ国内に魔物が持ち込まれている可能性があります」
「なんだと?」
シェラオリアルがギュッと眉間にシワを寄せた。
思っていたよりも聞き捨てならない話であった。
「実は……」
アリアは何があったかを説明した。
港でケルフィリア教が何かをしようとしていて結果的に目的を阻止しようと魔物と戦ったこと、その後に運び込まれた魔物のうち半数がすでに別の場所に移動させられていたこと、行方を追いかけてみるとカロンストナに運び込まれている可能性が大きいことなどシェラオリアルには正直に話す。
「そのようなことが……なぜマルエラは国に報告しなかった?」
「まだ確定ではなかったですから」
マルエラが突き止めたところではいくつか候補地があるというところまでだった。
魔物がそこにいない可能性も十分にあり得た。
魔物がいないかもしれないのに魔物がいるかもしれないと国に報告した時なぜそんなことを知っているのだとマルエラが疑われるだろう。
マルエラとしては魔物がいることが確定してから理由をつけて国に報告するつもりだった。
もしかしたらマルエラは魔物がいるところまで突き止めた可能性があるとアリアは見ている。
「だからマルエラを誘拐するために王城に魔物をけしかけたと?」
「国に報告されればケルフィリア教の計画は完全に狂ってしまうでしょう。報告される前ならば止められると考えたのかもしれません」
「……分かった。アリアのことを信じる」
「シェラオリアル様……」
「このような話で私を騙すはない。話してくれたということは私を信頼してくれたということだろう? ならば信頼を返そう」
かなりぶっ飛んだ話である。
しかしシェラオリアルはアリアの話を信じることにした。
驚きの事実ばかり出てくるが説明に不自然なことはなく理解できる話である。
「どこにケルフィリア教が魔物を隠しているのかアリアは聞いていないのだな?」
「いえ……聞いていません」
こんなことなら候補地の場所ぐらい聞いておけばよかったとアリアは思う。
「聖印騎士団の方はどうだ? 向こうで調査していたのなら知っている可能性はないだろうか」
「あるかもしれません」
「私は聖印騎士団ではない。私が聖印騎士団を探し出してしまえば問題になるかもしれないしケルフィリア教に勘づかれてしまう可能性もある。アリア、君に任せてもいいか?」
「……任せてくださるのですか?」
「ふっ、私の娘に任せることに何の不都合がある?」
大胆かつ判断が早い。
アリアだから任せてくれる部分はあるのだろうがマルエラを救うためには迅速に動くことが肝要なのだとシェラオリアルは分かっている。
こんな時に話し合いに終始するマヌケとは大違いだ。
アリアやマルエラが聖印騎士団なことやケルフィリア教が魔物を国内に持ち込んだことを飲み込み、次なる手を打とうと考えている。
正しい君主たる姿に思わず跪いてしまいそう気分にさせられる。
「必要なら騎士を動かしても構わん。お金や欲しいものがあったら言うといい」
「ありがとうございます」
「もしかしたら未来においてアリアの騎士になるかもしれないんだ。助けるぞ」
「……はい!」




