事件発生2
安全を考えると会場を離れるべきかもしれないがそれで招待客を人質にでもされるのは面倒。
目の前に来てくれたら自ら囮となって戦ってみんなを守ることができる。
「シェラオリアル様!」
他に大きな騒動が起こることもなくシェラオリアルのところにロイヤルナイトが駆けつける。
「城内をくまなく捜索しましたが他に怪しいものはありませんでした。現在警護の人員を増やして警戒に当たっています」
ロイヤルナイトの女性騎士が状況を報告する。
一瞬騒がしくなったものの騎士たちの動きは速く冷静で事態の収集はあっという間だった。
こうなってしまうと新たに行動を起こすことは難しくなる。
騎士たちが警戒を強めていて、会場にも物々しい警戒の騎士が並んでいる。
ざわついて客も騎士が守ってくれている安心からか談笑を再開し始めたりしていた。
時間が経ってシェラオリアルも高い警戒心を保つことをやめた。
ある程度警戒はするけれどここから何かをするとはどうしても思えなかった。
「シェラオリアル様!」
もはや事件はほとんど終わった。
そう思っていると一人の騎士がかけてきた。
「どうした?」
急ぐようにはしているが表情から危険性は感じない。
ただ何か問題がありそうな雰囲気があるとシェラオリアルは思った。
「敷地内現れた魔物の討伐、処理が完了しました!」
「……なぜ君が報告を?」
魔物が無事に倒されたことは喜ばしい。
しかしシェラオリアルは目を細めた。
本来なら魔物を討伐に行かせたマルエラが報告に来るはずだった。
それなのになぜ一介の騎士が報告に来たのか。
マルエラが怪我でもしたのか、さらに不測の事態が起きたのかと不穏な空気が流れる。
「そこについてもご報告が。マルエラ様ですがお姿が見えなくなりました」
「なに? どういうことか細かに報告せよ」
「はっ! まずマルエラ様がご到着なさった時すでに騎士で戦い始めておりました。最初は二体と報告していましたが、もう一体いたことが分かりマルエラ様が単独でそちらの方に向かわれました」
二体魔物が現れたと言われていたけれど実はもう一体魔物がいた。
7等級の方は騎士で制圧できそうだったのでマルエラは単独でもう一体の魔物の方に走った。
「魔物を処理してマルエラ様のところに駆けつけたのですが、魔物の死体はあってもマルエラ様の姿はありませんでした」
7等級の魔物を倒してマルエラのところに駆けつけた騎士たちが見たのはすでに死んでいる6等級だけで、そこにマルエラはいなかった。
魔物が倒されている以上マルエラがやったのだろうし騎士たちが周辺を探したけれどどこにもマルエラはいないのだ。
仕方なくその場にいた騎士がシェラオリアルのところに急ぎ報告に訪れたのである。
「マルエラが? 何か問題でもあったのか……」
真面目な騎士であるマルエラが魔物を倒しただけでどこかいくとは考えにくい。
「城外で問題は?」
「今のところ魔物の報告はありません」
ロイヤルナイトの女性騎士に問いかけると素早く答えが返ってくる。
もしかしたらまだ魔物がいてマルエラが追いかけて行った可能性も考えられるが、他の魔物の報告は上がってきていない。
ならばなぜマルエラが消えたのかとシェラオリアルは眉間にシワを寄せて考える。
「……マルエラ卿が目的では?」
「アリア、何だって?」
「今回の騒動何の目的もなく起こしたにしてはあまりにも不自然です。ただ今回マルエラ卿がいなくなったということを考えるとマルエラ卿が最初から目的だったのではないでしょうか?」
シェラオリアルでも招待客でもない。
マルエラが目的だったのしたらとアリアは考えた。
なぜマルエラを狙ったのかという疑問はあるけれど、マルエラが目的だったと考えると騒ぎを起こしたことに説明はつけられる。
「マルエラが目的……なぜだ?」
ロイヤルナイトたるマルエラはシェラオリアルのそばに控えている。
こうした騒動でもない限りシェラオリアルのそばを離れることはないのだからマルエラが目的だったとしたら騒動を起こしたことも理解はできた。
だがいくら考えてもマルエラ一人のためにこのような騒ぎを起こした理由がわからない。
マルエラをシェラオリアルから引き剥がしてシェラオリアルを狙うならともかく、ロイヤルナイトとはいえ一介の騎士であるマルエラの方を狙ってどうするのだ。
「まさか……」
「アリア? 何か思い当たる節でもあるのか?」
アリアにはマルエラが誘拐されるに思い当たるものがあった。
しかしこれを言ってものかということを悩む。
「なんでもいい。マルエラは大切な私の騎士だ。思い当たることがあるなら教えて欲しい」
「……分かりました」
シェラオリアルならばいいだろう。
きっと何があってもシェラオリアルならば受け止めてくれる。
「……ケルフィリア教かもしれません」
アリアはマルエラがさらわれた原因になったかもしれない因縁の相手について口にした。