ブルーアンドホワイト6
付けてもらった騎士は2人。
レンドンという中年の騎士はそこそこの実力がある真面目な騎士である。
一般的な実力はあるがオーラの発現にも恵まれず剣のレベルも上がらずに止まっている。
安定はしているけどうだつの上がらない騎士と言ったところ。
経験はあるし細かい気も配れるので今回抜擢された。
押し付けられたとも言える。
ヒュージャーという若い騎士は有望株な方ではある。
ただしこちらも真面目で融通が利かない方なので疎まれている感じではある
緩めの騎士ならよかったのにと内心アリアは舌打ちした。
お付きのものとしてシェカルテを連れていくのはともかく問題はカインであった。
今回の行動の目的はカインでありカインがいなきゃカンバーレンド家なんてアリアは微塵も興味がない。
見知らぬ子供を同行させることにレンドンとヒュージャーは難色を示したが使用人見習いであるとなんとか押し切って馬車に詰め込んだ。
疑い目をしていた2人の騎士だがカインは実際にアリアをお嬢様と呼んで甲斐甲斐しく世話を焼こうとした。
アリアが靴を舐めろと言ったら舐めそうなほどの雰囲気に使用人であることは認めた形となった。
上手く騎士を騙したので褒めてやったりするとすごく嬉しそうに笑う。
なんとも可愛らしい子犬のようだ。
アリアが野宿に耐えられるか騎士たちは心配だったようだけど予想に反してアリアは文句の1つも漏らさない。
それどころか手伝いもする。
ふんぞり返っているだけでは気分も悪いし準備に時間もかかる。
外での野営は早さが命。
元より生粋のお嬢様でもない。
家のことを手伝ったり、回帰前では色々なことをした。
野営でも騎士が守ってくれて命の心配もないのならそれで十分である。
カインもいざとなったら俺が守ります!って意気込んでいたけれど魔物に襲われることもなく夜は過ごせた。
予定の3日を過ぎることもありうるとレンドンは考えていたけれどアリアがワガママも言わずに素直に良いペースで進むことができたので予定通りに行くことができた。
後々ゴラックたちも合流するので良い宿に泊まることになった。
「お疲れ様です。
こちらお茶ですわ」
アリアはレンドンとヒュージャーに紅茶を振る舞った。
あたかもここまで連れてきてくれたことに対する労いかのように笑顔で。
少しレンドンは感動した。
屋敷の中ではワガママで、そのくせ非常に内向的なお嬢様であるとアリアのことは噂されていた。
今回のこともとても面倒なことを押し付けられたものだとため息が出るほどであった。
しかし特別に手当を出すと言われて、お金に釣られる形で引き受けることになった。
レンドンも家に帰れば妻と子がいる家庭持ちであった。
噂に加えて自分の子供を見ていたらそれなりに苦労しそうだと覚悟していたがアリアは気遣いのできる良い子だった。
ヒュージャーも紅茶を飲むぐらい断る理由もない。
「お疲れでしょうから甘くしてありますわ」
2人が紅茶に口をつける。
アリアの言う通り甘さが口に広がる。
普段は紅茶も飲まないし甘いものを口にもしない。
けれと少人数で護衛しながら、お嬢様でもあるアリアに気を使いながらだったので精神的にも疲れていて甘さが染み渡るような気がする。
「うっ……なんだ、眠く」
温かい紅茶で体が温まったせいだろうか。
レンドンは急な眠気に襲われた。
ヒュージャーもまぶたが重そうにしているように見えた。
「やはりお疲れなのかもしれませんわね。
……今日はシェカルテにお店の確認だけしてもらって外出するつもりはありませんわ」
ぼんやりとし始めた頭にアリアの声が甘く響く。
まるで眠りへと誘われているようで体に力が入らなくなっていく。
「しかし……護衛の任務が……」
「宿のお部屋に誰が入ってくると言うのですか?
そのような怖いことおっしゃらないでください」
それもそうかとレンドンは思う。
ここは良い宿。
泥棒なんかも入りにくい。
眠気と戦うように前後にゆっくりと揺れ出すレンドン。
しかし抗えぬ眠気に負けてその意識を手放してしまった。
「おやすみなさい、レンドン、ヒュージャー」
寝たとは思いながらより深い眠りに落ちるまで待ったアリアは一応レンドンの頬を指で突いてみる。
反応はない。
レンドンはテーブルに突っ伏し、ヒュージャーは背もたれにもたれかかって眠った。
2人には毛布をかけてやり、残った紅茶は処分する。
「さて、行きますわよ」
そしてアリアはシェカルテとカインを引き連れて外に出る。
外出するつもりがないなど真っ赤なウソ。
レンドンとヒュージャーが眠ったのも疲れが溜まっていたからなどではない。
アリアは紅茶に睡眠薬を混ぜていたのである。
次の日に出発することと騎士が付くことが決まってアリアは騎士に邪魔されずに行動する方法を考えた。
そこでアリアは騎士を眠らせてしまおうと決めた。
シェカルテを走らせてイングラッドのところに行かせた。
睡眠薬を用意しろというアリアの突然の命令だったがイングラッドは大人しく従って睡眠薬を用意した。