憧れの戦い4
「あっはっはっはっ!」
シェラオリアルは愉快そうに笑う。
アリアを馬鹿にしているのではない。
高い実力を持ち合わせ、貴族の令嬢にふさわしくないほどの気合いと闘志に満ちている。
魔法も展開が速く力強く、真紅のオーラも完璧にコントロールされている。
それにまだ隠していることもありそうだとシェラオリアルは感じた。
強い。
これまで見てきた女性の中でもトップクラスの強さを誇っていると感心した。
今はまだ若いからシェラオリアルに敵わないけれどこの先研鑽を続けていけば自分すら超えられるだろうとすら思える。
だから嬉しくなった。
期待できる存在が目の前にいて楽しくなって笑ったのである。
シェラオリアルが手を振ると木剣が一斉に元の場所に戻っていく。
「アリア・エルダン」
シェラオリアルは汗をタオルで拭くアリアに近づいた。
「私の娘になるつもりはないか?」
「へっ?」
アリアの肩に手を乗せたシェラオリアルは真面目な目をしてアリアのことを見つめる。
予想だにしなかった言葉にアリアは思わず気の抜けた声を出してしまう。
「それはどういう……」
「文字通りの意味さ。だが安心してくれ。息子と結婚しろという意味ではない。私の養子とならないかということだ」
アリアだけではなくその場にいた全員がシェラオリアルの提案に驚いた。
「我が国は代々女性が王位を継いできた。時に女性が生まれないこともある。そんな時は男が王になるのではなく優秀な女性を養子として王位を継がせることもあるのさ」
シェラオリアルは目を細めるようにして笑顔を浮かべているけれど、今の発言はかなり大きなものである。
つまりはアリアに王位を継がせるつもりもあると解釈できてしまう発言なのだった。
「…………ありがたいお話ですがお受けできません」
「どうしてだい?」
アリアは提案を断った。
そのことにまた周りは驚いているのだけどシェラオリアルはそんなに驚いた様子はなかった。
「まだ私にはやるべきことがあるのです。それを終わらせずにはカロンストナに来ることはできません」
そんな予感がしていたとシェラオリアルは思った。
アリアには芯の強さを感じる。
何の信念も、やるべきこともない人がここまで強くなることは難しい。
きっとアリアにはシェラオリアルの知らない何かを抱えているのだと思っていた。
「ならばそのやるべきことが終われば私の娘になるのだな?」
「えっ、それは……まだ」
エルダン家との兼ね合いもある。
アリアは跡継ぎではないので自由にはできるだろうが他国の人の養子になるというのは大きな話であり、一人だけで決められることもでもない。
「今日からアリアのことを娘と思おう」
「ええっ!?」
「約束はいつでも有効だ。ここを家だと思ってくれてもいい。帰ってくる部屋も用意しておこう」
「ちょ……」
「用事が終わったらいつでも帰ってこい」
ここまで何にも動じることがなかったアリアが完全に押されているとジェーンは思った。
仮にアリアがシェラオリアルの娘になったとしたら自分はどうなるのか。
あまりにも急激で荒唐無稽な話にジェーンもぼんやりと的外れなことを考えていた。
「アリアを調べろ」
「はっ」
呆然とするアリアを置いて笑顔を浮かべるシェラオリアルは一足先に訓練場を後にした。
アリアが何をしようとしているのか知らないけれどアリアの用事は気になった。
アリアを娘と思うというのも本心からである。
娘が何をしているか気になるのは親心として当然。
「娘がいなくて困っていたが良い子を見つけた」
シェラオリアルは思わずゆるむ口元を手で隠す。
魔性の女アリアは憧れの女性すら虜にしてしまっていたのである。