憧れの戦い3
「ならば!」
「ほっ……」
アリアが魔力を放出した。
襲いかかってくる四本の剣をアリアの魔力が包み込み、そして魔力が一瞬にして氷に変わった。
アリアの魔力によって作り出された氷に封じ込められた剣は重たい音を立てて地面に落ちる。
流石のシェラオリアルも驚きに目を見開いた。
オーラで対抗してもよかったのだけどあえて魔法を使った。
魔法には魔法で、アルドルトの弟子同士であるので挨拶みたいなものである。
「はっ!」
アリアは剣を凍らせただけで立ち止まらない。
素早くシェラオリアルに近づいたアリアが剣を振り下ろす。
たとえ他国の王だろうと容赦のない一撃。
「そうこなくてはな」
シェラオリアルは嬉しそうに笑った。
王になってからというもの、シェラオリアルに本気でかかってきてくれる相手などいなかった。
倒す、という目をしてかかってきてくれることがシェラオリアルには嬉しいことだった。
「タダではやられないぞ」
シェラオリアルは一本の剣を動かしてアリアの攻撃を防ぐ。
一本なのにアリアですら押されてしまうような苛烈な剣術。
四本の剣と戦っている時よりも剣に重みがある。
ただ一本だからというわけではない。
これは腕があった時から使っていたシェラオリアルの剣術なのだ。
「笑っている……」
アリアもうっすらと笑みを浮かべていた。
シェラオリアルだけでなくアリアも戦いを楽しいと思っていた。
シェラオリアルは知らないがアリアにとってシェラオリアルは回帰前からの憧れの人だった。
女性ながらに誇り高き王であり腕を失っても諦めない強い精神の持ち主である。
それでいながら魔法で生み出した新たな戦い方は腕を失う前よりもシェラオリアルを強くした。
多数の剣を操って一人で魔物と戦うシェラオリアルの姿は今でも記憶に強く刻まれている。
そんな人と戦えて嬉しくないはずがない。
「紅いオーラ……話には聞いていたけれど美しいね」
アリアも全力でシェラオリアルに応える。
紅いオーラをまとったアリアはシェラオリアルが操る木剣を叩き折った。
アリアの深い紅色のオーラは見る者の目を奪う。
さらに薄く均等にまとわれたオーラはオーラを扱うものなら目を見張るような技量であった。
「じゃあこれならどうだい?」
シェラオリアルは左手をアリアに向けた。
浮いていた剣が8本アリアに向かって飛んでいく。
「ぐっ!?」
8本の剣がまるでバラバラの人に操られているかのように自在に動く。
それでいながら剣同士が邪魔にならないように巧みに連携をとっている。
加えて剣が繰り出す剣術はシェラオリアルの剣術を自由に動かせる念での剣で改善したものであった。
「負け……ない!」
「すごいな」
オーラだけでも魔法だけでも敵わない。
ならば両方使う。
氷を発生させてシェラオリアルの剣を防いだアリアは目の前に飛んできた剣をオーラを込めて叩き折る。
最初の氷でも思ったけれど魔力を魔法に変換する速度が非常に速い。
「はああああっ!」
アリアは先の尖った鋭い氷の大きな塊を放った。
氷の塊は真っ直ぐにシェラオリアルに飛んでいく。
「ふっ、こんなものではやられないぞ!」
まだまだ浮いている剣はある。
シェラオリアルは氷の塊を剣を操り叩き割る。
「おっ!」
「やああああっ!」
氷の後ろからアリアが飛び込んできた。
見るとアリアの周りにあった剣は氷の中に閉じめられている。
「はははっ! いいな!」
「チッ……」
シェラオリアルの首を狙ったアリアの剣はギリギリのところで防がれた。
後一歩だったのにと思わず舌打ちをが漏れてしまう。
「……笑っ……」
アリアの攻撃は防がれた。
なのにアリアがニヤリと笑ってシェラオリアルの本能が危険を察した。
「ぐっ!?」
シェラオリアルはとっさに体をねじった。
「まさか……!」
「なんということだ……」
周りの騎士に驚きが広がる。
シェラオリアルは脇腹に鋭い痛みを感じて顔をしかめる。
シェラオリアルの脇腹をかすめたのは訓練用の槍だった。
最初にシェラオリアルが操る剣を奪い取ったようにアリアも念属性が扱える。
シェラオリアルに向かって走りながらアリアは近くにあった訓練用の槍に魔力を飛ばしていた。
首を狙いながらも同時に槍をシェラオリアルに飛ばしていたのである。
「うわっ!?」
槍が高速で飛んできて騎士たちが慌ててかわす。
「ふふふ……一撃食らってしまったね!」
油断していたわけではないけれどアリアの巧みな連続攻撃に攻撃をかすめられてしまった。
仮に槍が本物だったら浅くとも脇腹が切り裂かれてしまっていた。
小さな怪我でもダメージを受けるのは危険が大きい。
シェラオリアルはどんな手でも使って勝とうというアリアの姿勢に深く感心すると同時に立派な相手であると気を引き締めた。
「もうやられはしないよ!」
シェラオリアルは残っていた全ての剣を動かした。
「うっ……」
氷で封じていた剣で氷を破って動き出して一気にアリアに向かってくる。
オーラを一気に放出してアリアは剣を振るう。
「諦めない姿勢……見事!」
「…………参りました」
全ての木剣に襲い掛かられてもアリアは抵抗を見せた。
しかし結局全ての木剣に対応し切ることはできずに全身に切っ先を突きつけられてアリアは剣を手放して降参した。