憧れの戦い2
「私がアリア嬢の相手をしよう」
アリアは思わず叫んでしまいそうだった。
こんなに幸せなことあっていいのだろうか。
「是非とも全力できなさい」
まさか憧れの人の手解きを受けることができるだなんてと感動すら覚える。
「なに?」
シェラオリアルの後ろに浮かぶ剣の一本がアリアの方に飛んでいき手の中に収まった。
周りで見ていたカロンストナの騎士たちがざわつく。
「ではお願いいたします。一本ぐらい剣をいただきます」
シェラオリアルがアリアに剣を渡したのではなかった。
魔法で浮かされている剣をアリアが魔法で奪ったのである。
他人の魔法を簒奪するのは簡単なことではない。
他人の魔力が込められたものに自分の魔力を込めて無理やり奪うことは相当な技術と魔力を必要とする。
さらに念属性魔法は難しく使い手も少ない中でシェラオリアルは念属性魔法のトップクラスの使い手なのである。
そんなシェラオリアルかは剣を奪った。
加えてアリアが魔法を使ったということにも周りで見ていた騎士団員たちは驚いていた。
オーラユーザーであることは知っていても魔法を使えることは知らないのである。
「あまり驚いたような様子はありませんね?」
剣が奪われたことに対して少し驚いていたけれど周りの騎士団員たちほどシェラオリアルは驚いていないように見えた。
「ふふふ……私の師匠は誰か知っているかい?」
「……いえ」
シェラオリアルについて調べたこともあったけれど魔法の師匠まで聞いたことはない。
「アルドルト先生が私の師匠なのだよ」
「えっ!?」
今度はアリアが驚く番だった。
アルドルトはアリアが通うアカデミーの学長でありアリアの魔法の師匠でもある。
「私が腕を失って絶望している時に声をかけてくれたのがアルドルト先生だった」
腕を失いながらも敵を打ち果たして王の座についたシェラオリアルだったが、腕を失ったことで女王としての立場も微妙なものであった。
カロンストナにおいて戦えない女王というのは冷たい視線を浴びていた。
腕がなくなったショックもあったしどうしようかと悩んでいたところアルドルトがシェラオリアルに声をかけたのだ。
アリアが通うロワルダインアカデミーはシェラオリアルも通っていた。
当時まだ学長ではなかったアルドルトはシェラオリアルに魔法を教えていたのだ。
しかしシェラオリアルはオーラが使えないからと魔法を使うということに納得できずに魔法を極めることがないままアカデミーを卒業していた。
それでもアルドルトはシェラオリアルのことを目にかけていたし良い相談相手であった。
シェラオリアルの状況を聞いたアルドルトはシェラオリアルに声をかけ、そして魔法を使ってみることを提案したのである。
手を出したことのなかった念属性に手を出してみて結果的にシェラオリアルは開花することになる。
「アルドルト先生からあなたのことは聞いている。つまり私は君の姉弟子ということになる」
良さそうな人はいないか。
そんなことをシェラオリアルがアルドルトに聞いた時にアリアはどうだろうかと答えていた。
ちょうどその時は王太子妃適性試験の話が出たところだった。
アルドルトはアリアの選択肢を広げようと信頼できるシェラオリアルにアリアが弟子であることを伝えていたのである。
「同じ師に教えを受けた者同士楽しく戦おうではないか!」
剣の一本がアリアの方に飛んできた。
「ではこちらも本気でいかせていただきます!」
元より手加減などするつもりもなければできる相手でもない。
だがアルドルトの弟子であるならば余計にやる気を入る。
アリアは飛んできた剣を弾き返す。
けれど弾き返された剣はすぐさま空中で止まると再びアリアに襲いかかる。
剣が空中で動いてアリアは上手く防御する。
魔法で浮かされた剣なのに一撃は重たく、さらにはしっかりと剣術を駆使してアリアのことを攻撃してくる。
姿が見えない誰かが剣を握って戦ってきているようにも感じられる。
「はぁっ!」
けれど相手の強さとしてはそれほど強くもない。
アリアが木剣の真ん中を狙って叩き折った。
「ふふ、やるじゃないか」
今度は二本の剣をシェラオリアルはアリアに差し向けた。
「くっ!」
一本なら余裕であったけれど二本になると大きく難易度が跳ね上がる。
二人から同時に攻め立てられているようでなかなか対処が大変である。
それでもアリアは剣をかすらせることもない。
「すごいな」
アリアの実力については聞いていたけれど所詮令嬢の嗜みだろうと思っている騎士も多かった。
けれどもアリアは二本の剣に対して上手く対処していて実力は単なる噂ではなかったのだと見せつけている。
「まだまだいくよ?」
「もう四本か」
シェラオリアルはさらに二本の剣を追加した。
計四本の剣がアリアを囲むように飛び回り切りかかる。
「流石に……辛いですね!」
四本もの剣を同時に動かすのは非常に難しい。
それなのに剣はそれぞれ独立して動き、一本一本が人が持っているかのように攻撃が重たい。
流石のアリアでもこれは厳しかった。