到着
ひとまず何の問題もなくカロンストナの首都であるストラエンまでやってきた。
カロンストナは宴の雰囲気でやや浮かれたような明るさがあった。
シェラオリアルの治世になってからカロンストナの情勢は非常に安定している。
経済は上向き、貧しい人にまでシェラオリアルは目を向けるので国民の多くがシェラオリアルを国王として支持している。
そんなシェラオリアルの生誕祭となると国民もお祝いのお祭りとなる。
お祭りの前のソワソワとした空気感が町中に漂っているのである。
慕われている王様と祝う国民とは素晴らしい間柄である。
アリアは自国の王の誕生日など知らない。
回帰前自分のことを処刑した王様なので祝うつもりもない。
「どちらに向かいますか? 宿お探ししますか?」
御者台のレンドンが馬車の中にいるアリアに声をかける。
ポルマの時は聖印騎士団と話があったのでアリアが宿を指示したけれど、以降はレンドンに宿を探してもらっていた。
お金は十分に持ってきているので貴族が泊まるような高級宿に泊まっていた。
「このまま王城に。招待状もあるので王城の方で泊めてくださるそうです」
ただストラエンでは宿を探す必要はない。
招待状には宿泊として王城の部屋を提供してくれることも書かれていた。
誕生祭に遅れないようにと早めに出たので早めに着いたけれど多少お世話になるぐらいいいだろうとアリアは思う。
「ただ良さそうな宿も探しておいてください」
「あ……はい」
ストラエンにある王城は町のほぼ中央に位置している。
馬車を走らせていくと町中の活気が落ち着いてきた。
平民たちが多く住んでいるところを抜けて貴族が住む落ち着いた住宅街に入ってきたようだった。
そのまま馬車をゆったりと走らせていくと王城までやってきた。
「ご用件は何でしょうか?」
王城の門の前で門番に止められる。
「アリア・エルダンです。王城で泊まらせていただけると聞いておりまして。こちらが招待状です」
窓を開けてアリアが対応する。
招待状を見せると門番の顔色がさっと変わる。
門番が一度中に入ってしばらくして別の門番ともう一人女性がアリアの乗る馬車に近づいてきた。
「第二騎士団の団長ヘレネアと申します。ご令嬢の案内をさせていただきます」
シェラオリアルが招待した賓客なのでわざわざ騎士団の団長が出てきた。
王城の前で馬車を止め、アリアはヘレネアのエスコートで馬車を降りた。
馬車に乗っていると分からなかったけれどヘレネアはかなり高身長の麗人であった。
エスコートの時に手に触れたけれど手のひらに硬くなった豆がある生粋の武人であるようだ。
カロンストナにあって騎士団長ということはヘレネアもオーラユーザーなのだろうなとアリアは思った。
「お部屋に案内いたします」
王城の中を案内される。
通路には埃一つ落ちていなくて手入れが行き届いている。
過度に豪華なものなども置いておらず落ち着いた雰囲気がある。
「ブリジートと申します」
「テレケートと申します」
アリアが泊まることになった部屋には二人の使用人がいた。
双子で顔はほとんど一緒だった。
ブリジートの方にはアゴに小さなほくろがあって、それがなければアリアにはどちらがどちらか分からないところだった。
「何かありましたら彼女たちにお申し付けください」
「ええ、分かりました。ありがとうございます」
「それでは私は失礼します」
ヘレネアが背筋を伸ばして頭を下げる。
それだけでも絵になる。
背が高くてプロポーションがいいというのは羨ましいとアリアは思った。
「何か御所望のものはございますか?」
「いいえ、もうすでに十分なもてなしは受けています。後で出かけたいのでオススメのお菓子店でもあればお教え願えますか?」
「分かりました」
「調べておきます」
「何かあれば私たちにお申し付けください」
少しのズレもなくブリジートとテレケートは同時に頭を下げる。
本当に鏡にでも映しているかのように動作が一致している。
「ひとまず今は何もないので大丈夫です」
「そうですか」
「それでは失礼いたします」
空気を察して二人は部屋から出て行く。
「ふぅ……」
軽く息を吐き出してベッドに腰掛ける。
旅の疲れが少しある。
流石にずっと馬車に乗っているのは疲れるのだ。
ただそれよりもシェラオリアルの国、住まう王城にいると考えるとドキドキしてくる。
目を閉じると回帰前に見たシェラオリアルの姿が浮かんでくる。
アリアの周りに母以外に尊敬できるような女性など皆無だったのだがシェラオリアルの戦う姿はアリアが今でも憧れる姿の一つである。
まさか回帰してきてシェラオリアルにここまでお近づきになることができるとは思いもしなかった。
サインを求めるのははしたないだろうかなんて思う。
「……色々変わりましたね」
ここまでの歩みを思い起こしてアリアはつぶやいた。
何も知らずにただ生きようとしていた回帰前のアリアは死んだ。
今は復讐に燃え、前を見て突き進んでいる。
自分が変わろうと努力して他の何かを変えようとは思ってもないけど多くのことが変わってきている。
「この変化を続けていつかケルフィリア教を潰してみせる……」
アリアはそのままベッドに横になる。
着替えてもいないのに。
そう思いながらアリアは目を閉じて眠りに落ちてしまった。