憧れの人の国3
アリアとジェーンは部屋を出た。
残念ながら部屋の都合でということでレンドンとヒュージャーは別の階なのであまり気にしないでも活動できる。
アリアは自室から二つ隣の部屋のドアを奇妙なリズムで4回ノックした。
「お入りください」
少し間があって年配の男性がドアを開けて二人を招き入れた。
部屋の中には招き入れてくれた男性の他にフードを深く被った人が待っていた。
マントで体を覆っているので男性か女性かも分からない。
「アリア様、ジェーン様ですね。お初にお目にかかります。聖印騎士団のバージェスと申します」
部屋に招き入れてくれた男性のバージェスが穏やかな笑みを浮かべて頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「そしてこちらが……」
「マルエラと申します」
立ち上がってフードを下ろすと若い女性であった。
金髪に青い瞳の端正な顔立ちをしているが左目の上に小さな傷がある。
「マルエラさんはロイヤルナイトのお一人です」
「例のお方ですか。マルエラ卿よろしくお願いします」
「アリア様もよくカロンストナへ。お会いできて光栄です」
マルエラはすっと頭を下げる。
騎士らしくキビキビとした動作である。
「マルエラ卿といえば私たちの先輩になりますね」
「……存じ上げているのですか?」
マルエラは驚いたような目をした。
「もちろんですわ」
アリアはマルエラのことを知っていた。
知り合いなんてことはなく、顔も知らないのだけどマルエラというオーラユーザーのことは知っていた。
なぜならマルエラはアカデミーの先輩であったから。
先輩といえどアリアとアカデミーの在籍期間は被っていないので通常は知らないのだが、マルエラはユーケーンの所属で学園対抗戦の個人戦で優勝したこともあったのだ。
過去の優勝者にもあまり興味はないのだけど女性の優勝者はアリアも気になって覚えていた。
女性で学園対抗戦の優勝者、ユーケーンの先輩でオーラユーザーでもあり、カロンストナでシェラオリアルに仕えるロイヤルナイト。
アリアの記憶に残るには十分すぎる条件だった。
「まさかマルエラ卿が協力者だと思いませんでした」
「話すと長くなるので割愛しますが私の祖母の代から聖印騎士団に協力しているのです」
「そうなのですか。マルエラ卿がお味方にいてくださると心強いです」
「こちらこそカロンストナのためにアリア様が動いてくださることは光栄です。学園対抗戦での活躍は我が国でも注目していました」
女王シェラオリアルが上に立っているのでその下にも女性が多いカロンストナは女性の騎士や兵士も多い。
カロンストナそのものではアカデミーを持たないのでアリアが通うロワルダインアカデミーの方に通う貴族もいる。
なので学園対抗戦にも視察に訪れていた。
女性ながらに活躍するジェーンやアリアにも目をつけていたりしたのだ。
「もちろんヘカトケイ様のお弟子であられ、聖印騎士としてもご活躍なされていることも存じております」
さらにアリアの場合は聖印騎士団内でも多少名前が知られ始めていた。
ケルフィリア教を潰して回っているヘカトケイが唯一弟子にした存在で、これまでもケルフィリア教の計画を阻止してきた。
アリアの活躍はマルエラの耳にも届いていた。
「自己紹介はこれぐらいにして本題に入りましょうか」
「そうですね」
褒められるのも気分は悪くないがマルエラも暇ではないだろうと話を先に進める。
「状況はどうなっていますか?」
「アリア様の情報提供を受けてこちらでも進めております。ですが薬の流通ルートはまだ分かっていません」
「そうですか……」
「ですので別の方向から探しています」
「別の方向ですか?」
アリアがカロンストナに来た目的はケルフィリア教が魔物を持ち込んでいる可能性があるから。
魔物を大人しくさせるための薬を辿っていくとカロンストナにたどり着いた。
カロンストナの聖印騎士団、あるいはマルエラはアリアから情報を受けて薬の流通ルートを探ろうとしたけれど、ケルフィリア教でなくとも違法な薬の流通は隠しているので未だに把握しきれていなかった。
そこでマルエラは視点を変えてケルフィリア教の行方を探してみた。
「魔物を運んできたのですからかなり大きな荷物になるでしょう。そこら辺に置いておくわけにもいかないので魔物を隠しておく場所が必要となります」
「そうですね」
「一般的な建物には魔物の檻は入らないでしょうから倉庫のような大きな建物が必要となります。そこで大型の倉庫、かつ監査が入らなく金さえ払えば何を置いても文句も言われないようなところをピックアップして調査を進めています」
「なるほど……それは賢い考えですね」
フィランティスでも魔物は人目に付かない倉庫に隠されていた。
同じようにしている可能性は高い。
「薬の方も継続して調査していきますが細かなことについてはもう少し時間を要します。ただシェラオリアル様の誕生祭については私の権限で出来る限り警戒を高めてあります」
「ひとまずこのまま行くしかないということですね」
「……そういうことになってしまいます」
「そんな顔なさらなくても大丈夫です。焦らず、相手に悟られないように進めてください」
「分かりました。次に会う時には……王城になるかもしれませんね」
「またお会いできたら嬉しいですね」
何かが起こりそうな気がする。
少し気を引き締めねばならないなとアリアは思ったのだった。