憧れの人の国2
「ロイヤルナイトの一人が協力者……なんでしたっけ?」
「そうらしいですね」
ロイヤルナイトとはカロンストナで国に所属しているオーラユーザーのことをそう呼ぶ。
聖印騎士団の規模こそ小さいが国のオーラユーザーの一人が裏では聖印騎士団として活動していた。
国に所属するロイヤルナイトが味方であるので規模の割に情報力も高い。
「カロンストナに入りましたね」
「どうして分かるんですか?」
特に関所もなかったし予兆もないのにアリアがどうしてカロンストナに入ったと分かったのかとジェーンは首を傾げた。
窓の外を見てもカロンストナなんていう標識だってない。
「馬車の揺れが少なくなりましたからね」
「馬車の揺れ?」
そう言われてみればとジェーンは思う。
ガタガタと道の揺れをお尻に受けていたのだけど少し感じる振動が弱くなった気がする。
「道を見てみなさい」
「はい……あっ」
アリアに言われてジェーンが窓から少し顔を出して下を見てみる。
「綺麗に舗装されているでしょう?」
道は石で舗装されていた。
「普通の国ではこんなことしないのですがカロンストナでは主要な道を石でしっかりと舗装しているのです」
カロンストナは通行量の多い大きな道を石畳で舗装しているのである。
国力の象徴だったり経済力の誇示、あるいは民の通行のためなんか色々と理由がある。
ただ道を舗装したのはシェラオリアルではない。
シェラオリアルより前の王が自身の権力を示すために舗装を始めたのだ。
細かな道まで舗装する計画があったそうだが流石にそこまでやると国が破産するので主要な道だけで終わりとなった。
今の王であるシェラオリアルは舗装された道を維持管理している。
見た目にも分かるぐらいに綺麗に舗装されているので馬車の揺れもかなり少なくなっている。
舗装された道に入ってきたということはカロンストナに入ってきたということになるのである。
「お嬢様は博識ですね」
アリアの説明にジェーンは驚いている。
ジェーンもアカデミーを真面目に卒業しているので頭は悪くないのだけど、アリアの知識には驚かされることがある。
「カロンストナ……シェラオリアル様は憧れの人ですからね」
他の国に関しては一切興味もないので知らない国の方が多い。
しかしカロンストナに関してはちょっと知っている。
その程度であるとアリアは笑う。
けれどジェーンからしてみれば憧れの人がいるという話が出るだけでも結構驚きである。
シェラオリアルがどんな人なのかジェーンも気になってきてしまう。
「お嬢様、町が見えてきました。今日はあちらに泊まりましょう」
御者台に座るレンドンが馬車の中にいるアリアに声をかけた。
アリアが窓から外を見ると町が見えていた。
まだ少し時間的には早いけれど次の町まで行くには遅すぎる。
時間はたっぷりと取ってきているので早めに移動するよりも野営なんかしないで町に泊まることにした。
町中の様子もかなり整っていて道ばかりに気を遣っているのではないことがよく分かる。
「えーと、宿は……」
「レンドン、ポルマという宿に向かってください」
馬車の速度を落として宿を探しているレンドンに今度はアリアが声をかけた。
「ポルマですか?」
「ええ、評判の宿なのです」
知らない町なのに宿を決めているのかとレンドンとヒュージャーは驚いたけれど、もう二人はアリアがどんなことをしようと危険でない限りは口を出さないと決めて護衛をしている。
レンドンは道を歩く人にポルマまでの道を聞いて馬車を走らせる。
町の中心近くにあるお高めの宿がポルマである。
流石お嬢様はいいところを知っているな、なんてレンドンは素直に感心しているけれどアリアがわざわざこれから行く町の宿を調べるはずがない。
「エルダン……はい、お部屋空いてございます」
わざわざアリアは自分がエルダンだと明かして部屋を取りたいと言った。
ほんの少しだけ宿の受付に反応の間が空いてニコリと笑顔を浮かべた。
アリアとジェーン、レンドンとヒュージャーで一部屋ずつ。
「よく部屋が空いてましたね」
最上階の良い部屋がアリアとジェーンには当てがわれた。
良い部屋なことも意外だけど、良い宿の部屋がぱっと行って空いていたことも意外だった。
「そんなの当然ですよ」
「えっ?」
「私がここに来ることはポルマは分かっていましたからね」
「な、なんでですか?」
予約していたにしては受付はたまたま空いていたみたいな感じだったとジェーンは思い返す。
それなのにポルマがアリアが来ることをわかっていたとはなぜなのか。
部屋まで空けていたとなると余計に謎も深まる。
「ここは聖印騎士団がやっている宿なのです」
「あっ、そうなんですか」
ポルマは聖印騎士団が拠点兼情報収集のためにやっている宿であった。
アリアがカロンストナに来ることは聖印騎士団も知っているので聖印騎士団がやっているポルマが知っているのは当然のことである。
そのために部屋も確保してくれていた。
レンドンとヒュージャーには秘密なのであたかもたまたま部屋が空いていたように振る舞ったのだ。