ブルーアンドホワイト5
「……分かった。
元々ディージャンは行かせるつもりだったからな」
子供メインの集まり。
正直な話気に食わないところもあるので今回のお披露目会には行きたくないのだが貴族の交流というものがあるので理由もなく行かないこともできない。
マナーとしては未熟かもしれないが他の子と問題を起こすアリアではない。
未だに大人しくて内向的なイメージがアリアに対しては強く大人から離れなきゃ大丈夫だろうと考えた。
アリアに対して厳しいビスソラダはユーラを連れて別の集まりに行く予定なのでそこも問題にならない。
「ただし大人しくしているんだぞ?」
「ありがとうございます、おじ様!」
パッと笑顔になるアリア。
あまり見たことがないアリアの笑顔にゴラックも微笑む。
「あと……」
「あと?」
「カンバーレンド家があるローンディには美味しいお菓子屋さんがあると聞きましたわ。
是非とも行ってみたいのです」
少し恥ずかしそうにモジモジとするアリアに妙な愛おしさすら感じるゴラック。
娘がいたらこんな感じだったのかと思わずにいられない。
「そうなのか。
なら終わった後にでも……」
「えっと、実はそのお店に限定品があって」
吐血しそう。
甘いものは嫌いじゃないけどそんなお菓子屋さんの話なんか知らないしこの可愛らしい娘を演じるのもキツい。
だって中身は一度大人になった身である。
何が悲しくて目をキラキラさせて媚びなきゃならんのだ。
「それを食べてみたいんです!
そのためにはすぐにも出発しなきゃいけないくて……」
「それは……どうだろうな」
女の子がそうしたものに興味を持つことは理解できる。
けれどそのために今すぐ出なきゃいけないというのは簡単な話ではない。
「お願いします。
お菓子屋さんだけ行ったら後は大人しく待っていますので」
「まさか1人で先に行くつもりか?」
一緒に早く出ようと誘っているのかと思っていたがアリアの口ぶりから察するに先に1人で行かせてくれと言っている。
流石にゴラックの顔色もくもる。
そんなこと許されるはずがない。
もちろんアリアもなかなか無茶なことをお願いしているのは承知の上だ。
もう少し大きいならともかくまだ幼い女の子を1人で先に行かせるなどあり得ない。
あっさりと許可が出たらそれはそれでゴラックの人間性を疑ってしまう。
ただここまで来たらあと一押しなのだ。
アリアはスススッとゴラックに近づくと手を取ってウルウルとした目で見上げる。
こうなったら武器を総動員する。
「お願いします。
メイドも連れて行きますし、ようやく行ってみたいところが出来たんです」
自分でも驚くほど甘えた声が出せる。
人に甘えたり媚を売ることが苦手で回帰前ではこんな声出したことがない。
アリアの甘えの破壊力にゴラックが大きく動揺する。
知り合いの貴族が娘に甘えられたらもう抵抗することなどできないと言っていてゴラックは鼻で笑っていた。
息子が甘えてきても最後の最後にはちゃんと突っぱねることが出来る。
娘であっても変わらないだろうと思っていた。
なのに今はもうはっきりと断る言葉が口に出せない。
この顔をくもらせたくなくて、悲しい顔をさせたくなくてダメだと言い出せない自分がいることにゴラックは困惑している。
ジーッと上目遣いに見つめられる。
「……騎士をつけよう。
決して離れるなよ」
妥協案。
ゴラックにもディージャンにも予定があるので今すぐというわけにはいかない。
カンバーレンドのお披露目会まで近いのでアリアがすぐに出発してもゴラックたちもそれほど間を空けずに追いかけることにはなる。
その間護衛として騎士をつけ、大人しく過ごしてもらえればいい。
「ありがとうございます!」
ゴラックに抱きついて、頬にキスをする。
結構無茶なことをお願いしたと思ったが許可が下りた。
騎士という邪魔なものはついてくるけど大きな問題は解決した。
「ただ今日これからとはいかない。
準備をして明日出発なさい」
どうしてもニヤニヤしてしまい顔の緩みを抑えられないゴラック。
男を手玉に取る悪い女性の気持ちなど一生分からないと思っていたのに今になってちょっと理解が出来る。
約束は取り付けた。
ゴラックの気が変わったり冷静に考えられる前にアリアは部屋を出て自分にあてがわれた屋敷に戻る。
騎士という想定外の問題もあるがそれに対応するための準備もしてアリアは媚び売り疲れで早めに寝ることにした。
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正確な話ではローンディにあるカンバーレンドは首都と近くに来るための別邸があるところである。
居住している家はカンバーレンド領にある。
わざわざお披露目をするためにカンバーレンドではなく、ローンディまで来ている。
ローンディはアリアがいるゾーンレウの隣町になる。
馬を全速力で走らせれば1日でも着くことができ、馬車でゆっくり向かえば3日の距離。
回帰前は知らなかったけれど思いの外近いところにカンバーレンド家が来ていたこともあったのだ。
アリアはササっと準備をしてゴラックはアリアのお願い通りに次の日に騎士と馬車を用意してくれた。