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始まりの慟哭3

「なっ……!」


 人間追い詰められるとこれまでにどこに秘めていたのか分からない力を発揮することがある。

 アリアの体が赤いオーラに包まれて、手錠の鎖を引きちぎる。


 ただこれは今覚醒した力でもない。


「オーラユーザーだと!?」


『オーラのレベルが上がりました。


 オーラレベル2→3』


「グワっ!」


 アリアは怯んで力が弱まった一瞬の隙をついて自分を押さえつけていた男の顔を殴り飛ばした。


『格闘術のレベルが上がりました。


 格闘術レベル0→1』


「寄越しなさい!」


 体を反転させながらもう1人の男の腹に膝を入れる。

 そして腰に差した剣を奪う。


『格闘術のレベルが上がりました。


 格闘術レベル1→2』


 エランは自分の方に来ると思って身構える。

 しかしアリアはエランには切りかからなかった。


 横を通り走り抜ける。

 その先にはエリシアがいた。


 アリアを包む赤いオーラが剣も包み込む。


「は……」


「殺してやると言いましたわ!」


 狙うのはエリシア。

 恨みに思うこともあるが異端者に国を渡すわけにはいかないのである。


「ウッ!」


「むっ、意外と強いな」


 エリシアの後ろに控えていたフードの男が前に出てアリアの剣を防いだ。


(黒いオーラ……)


 その男の剣は黒いオーラに包まれていた。


「しかし剣術のレベルは低いな」


「クッ……!」


 アリアが素早く切りつけるが黒いオーラの男は最も容易く受け切る。

 何回かアリアの攻撃を防いでみせてバカにしたように笑う。


 剣術のスキルレベルが違いすぎて全く歯が立たない。

 アリアは普段から剣を振る人でもないので全く勝てる気がしない。


「後ろだ」


「うし……」


 命に換えてもエリシアに一太刀と思っていたが剣を下ろして黒いオーラの男はアリアの後ろを指差した。

 なんだと振り返る前にアリアの胸から剣が飛び出してきた。


「エラン……」


『苦痛耐性のレベルが上がりました。


 苦痛耐性レベル0→1』


 アリアの胸を後ろからエランが剣で刺していた。

 剣を抜くと胸からドロリと血が流れ出る。


 驚いていた顔のエリシアだったが衝撃に目を見開くアリアを見てひっそりとほくそ笑んだ。


「魔女が私の妻に手を出すな」


 冷たい目をしているエラン。

 あの目がアリアに対して暖かかったことなどない。


 もはや手遅れ。

 打つ手はない。


 だけどただでは死んでやらない。

  

「この世に神なんていない!


 神がいるならどうして私ばかりこんな目に合わせる!


 ただ普通の幸せ以外に望んだことはないのに!」


 エランが一歩退くほどの剣幕で泣きながらアリアは吼える。

 咳き込むと喉から血が上がってくる。


 地面に吐き捨ててアリアは全身にオーラをたぎらせて痛みに耐える。


「魔女に騙されているのはどっちだ!


 正しくものも見れない節穴の瞳で綺麗なものだけを見て楽しく踊らされているのは誰だ!


 ケルフィリアとか言う人を惑わし貶める卑しい神の信仰者に踊らされているのはお前らだ!」


 口を大きく歪めて笑い放たれた言葉にその場にいた全員が驚く。

 異端でも、あるいは異端だからこそケルフィリア教を口に出して悪く言う人はいない。


 表立って批判した貴族が一家惨殺されたとかケルフィリアを貶めて自分の宗教を持ち上げようとした宗教家が裸、血まみれで逆さ吊りにされていたとかケルフィリア教はケルフィリア教を悪く言うものを許さない。

 だからみなケルフィリア教に何かを思ってもたとえ自分の家の中でも悪く言うことはしないのである。


「平和に暮らしたい女を悪役に仕立てるグズでノロマでバカなケルフィリア!


 救いもなく他人を利用して貶めることでしか自分の価値を証明出来ない稚拙な暴力の神様!


 お前が地獄に堕ちろ!」


 アリアが口にしていることを他の人が言ったらケルフィリア教の人が飛んできて一族皆殺しだろう。

 けれどもうアリアに守るべき者はいない。


 エリシアの顔が怒りに染まっている。

 自分の信仰する神が冒涜されてどうしても感情を隠しきれていない。


 黒いオーラの男からもオーラが溢れている。

 エリシアの側にいるので予感はしていたがやはりこの男もケルフィリアの信仰者であった。


「主神と崇められているがディラインケラも同じだ!


 私のささやかな願いすら叶えてくれない!


 神はいない!


 神などそんざ……」


 黒いオーラの男がアリアの首を刎ね飛ばした。

 後に魔女の慟哭と呼ばれるアリアの最後の言葉。


 呪いの言葉、神を冒涜する酷い呪詛。

 どんな言葉を吐いたところでアリアに同情する人はいなかった。


 けれどアリアは思った。

 最後まで余裕の顔を崩さなかったあの女に一矢報いてやった。


 見たか、あの顔。

 驚き、そして怒りに染まった顔を。


 もはやアリアに責任を取らせることなどできない。

 いくら怒っても、いくら恨みに思ってもアリアは死んだ。


 ついでに国を守ってくれて人々を見守っているとされている主神ディラインケラも批判してやった。

 よく教会で祈った。


 熱心に、ただ少しの平和を願っていたのに。

 まだ家が無事だった頃は多くの寄付だってしたのに。


 結局何もしてくれないのなら。

 本当にただ見守っているだけなのならいないのと同じである。


 あんな神に祈って失敗した。


 もし次があるなら絶対に神なんて信仰しない。

 そして自分を信じず捨てた者、助けてくれなかった者、裏切った者、攻撃した者、関しようとしなかった者、全員ぶっ殺してやるとアリアは思った。

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