小さな懸念
今回開催校としてアリアのロワルダインアカデミーが奮闘した。
アリアも個人戦において頑張ったのだけど準決勝まで行って敗退してしまった。
結構やった方だと思うし程よいところで負けられたとアリアも満足である。
そもそもアリアの武器は剣だけではない。
あらゆるものを使い敵を粘り強く追い詰めていくのがアリアの戦い方なのだから剣だけでそこまでいけたのは出来過ぎなぐらいだった。
「フォッフォッ、よくやったものじゃのう」
学園対抗戦終わりのパーティーでアルドルトは上機嫌だった。
団体戦優勝、個人戦も優勝準優勝がロワルダインアカデミーだった。
さらには愛弟子であるアリアも準決勝までいったのだからご機嫌にもなるというものであった。
「あまり飲みすぎないでくださいよ?」
「うむ、分かっておる」
他のアカデミーとの競争もあるので優勝をかっさらうとアルドルトの気分も良くてお酒も進む。
アリアがそれとなく注意するとアルドルトは余計に嬉しそうにする。
孫娘とおじいちゃんみたいなものである。
「本当に魔塔に行かんでもいいのか?」
「……ええ、大丈夫ですわ」
急に少し真面目な顔になったアルドルトは水のグラスを手に取った。
アリアはアルドルトから魔塔に入るのはどうかと誘われていた。
エランの王太子妃適性試験について怒っていたのはアリアの父親であるゴラックやカールソンだけではない。
アルドルトもエランに対して強い不快感を覚えていた。
王太子妃適性試験を受けなくてもいい方法としてアルドルトは魔塔への入塔を勧めたのである。
魔塔に入れば世俗からは隔離される。
多少世に出られない期間はあるもののアルドルトが弟子としてアリアをそばに置くことにすれば再び活動はできると提案していた。
「何か考えがあるのだな?」
「もちろんですわ、師匠」
アリアが魔塔に入るとは思っていない。
だが王太子妃適性試験を受ける人だと思っていないのだけど、アリアが王太子妃適性試験を受けるつもりなことをアルドルトは知っていた。
だがアリアがエランに興味などないことも分かりきっているので何かしらの目的があるのだとアルドルトは理解している。
「困ったことがあったらなんでも言いなさい。いざとなれば魔塔で匿うぐらいのことはできるから」
「ふふ、ありがとうございます。心強いです」
アリアが本気で涙を見せたらアルドルトはエランぐらい消してしまうのではないだろうか。
「それと例の件はどうなっていますか?」
「調査しておるがなかなかな……」
アリアにはずっと引っかかっていることがあった。
大河のそばにある港湾都市フィランティスでケルフィリア教が連れてきた魔物と戦った。
そのことはいいのだけどあの時戦ったのは連れてこられた魔物の内の半分であった。
残りの半分はどこかに運ばれて行方不明になっていた。
聖印騎士団も手を尽くして行き先を探したのであるが、いまだにどこに運ばれたのか見つかっていない。
国の中に魔物の脅威があるということで何をするつもりなのかアリアは警戒していた。
見つからない以上どうしようもないのだが時間が経ったからこそ探すことができるのではないかとも考えていた。
いまだに大きな事件が起きていないということは魔物はどこかに隠されているということになる。
魔物は薬によって眠らされて隠されていた。
魔物を眠らせるほどの強力な薬は入手が難しい。
長い間魔物を眠らせておくのにも大量の薬が必要となる。
きっとケルフィリア教はこんなに長い間魔物を眠らせておくつもりなどなかったはずだろうとアリアは考えている。
フィランティスで失敗して追跡されたために魔物をどうにか隠しているのだ。
となるとどこかで薬を入手するはず。
「薬の方は流れを見ておる。動けば分かるはずじゃ」
「ありがとうございます」
「弟子のお願いだ。魔物が関わることだし協力は惜しまんよ」
魔法使いとして薬にも精通しているアルドルトにそうしたところに動きはないかと監視してもらっていた。
ケルフィリア教の薬が尽きて秘密裏に入手するのにも限界はあるのでどこかで動きが見えてくる可能性が高いと見ていた。
「……それにしても、魔法が使えればアリアが優勝じゃったのにのぅ」
「魔法が使えたら誰も敵わなくなってしまいますわ」
「フォッフォッ、そうかもしれなんな」
なかなかめんどくさい再会こそしたもののゲルダの情報を得ることができた。
実りはある学園対抗戦だったとアリアは思った。