交流パーティー1
あまり他の人と関わらないようにして学園対抗戦を過ごそうとしていたのだけどそうもいかなかった。
前年度のアカデミーが気をきかせてパーティーを開いた。
学園対抗戦の前に開かれたもので学園対抗戦に参加する生徒の交流を目的としていた。
もちろんスカウトに来た人たちもパーティーにはいて、スカウトこそ禁止されているものの生徒たちとの事前交流が解禁された。
事前交流を持ってしまうと大きな力を持っているところや人気のあるところがスカウトに関して有利になってしまうのではという批判の声もあったけれど、スカウトをしたい人たちにとってパーティーの開催はおおむね好評だった。
そのためにアリアたちのアカデミーでも事前のパーティー、事後のパーティーを行うことになっていた。
基本的に学園対抗戦に参加する人はパーティーに参加するので仕方なくアリアもパーティーに行くことになった。
ドレスなどを着て着飾ることはしないとルールが決められていて体を動かすための格好で皆パーティーに参加する。
「相変わらずなこと……」
学生メインのパーティーなので当然のことながらお酒はなし。
その代わりに明日からの学園対抗戦に向けて豪華な食事が用意されている。
キーリオとコーリオなんかは遠慮なく食事を食べていて騎士団長に怒られていた。
「いろんな方がいらっしゃいますね」
ジュースの入ったグラスを片手にアリアは会場を見ていた。
大きなアカデミーの生徒が集まる学園対抗戦なので未来で有名になる人もちらほらといる。
キーリオとコーリオもそうだけど今年の参加者にも有名になりそうな人がいた。
アリアは別にそんな人に興味はないのだけど学園対抗戦を勝ち抜く上で邪魔になりそうだなとは思う。
「またエルダンに誰か引き込むつもりかい?」
「良い人がいたらそれも考えていますよ」
「ふふ、君には敵わなそうだからやめてほしいところだけどな。うちのカインも君の息がかかっているのだし」
今回はカールソンもパーティーにいた。
大きな軍事力を持つカンバーレントも毎年学園対抗戦を見に来てスカウトをしているのだけど、今年は当主のギオイルではなくカールソンがカンバーレントの騎士団長と共に視察に来ていたのだ。
誰かと交流でも持てばいいのにカールソンはアリアのそばにいた。
他に変な人が寄り付かないからいいのだけどアリアに声をかけようとする人みんなを睨みつけるものだから孤立してしまった。
正確にはカールソンがいるので孤立とは言わないかもしれないけれどアリアのそばに寄り付く人は今のところカールソン以外にいない。
ただアリアはカールソンのことを黒いデッカい番犬ぐらいに思っていた。
「カインも囲まれていますね」
「あの子も顔はいいですからね」
カインは今女の子たちに囲まれている。
まだ一年生で出場者でもないので実力は表に知られていない。
そのためにスカウトが声をかけることはないが顔は良いのでみんなカインが何者か知りたくて声をかけているのだ。
「……アリアはカインみたいな顔がいいのかい?」
カールソンが少し体を屈めるようにしてアリアの顔を覗き込む。
出会った頃は少しカールソンが大きいくらいだったのに今ではだいぶカールソンの方が大きい。
カールソンの黒い瞳はアリアの目の奥を覗き込もうとしているように見つめていた。
「男の真価は顔ではありませんよ」
カールソンは以前も同じような質問をしてきた。
アリアが誰かを褒めるとああいうのがいいのかと聞いてきた。
その時もそうだけどアリアの好みとしての話をしているのではなくて単純に客観的な話をしているのだ。
アリアとしては見た目は大きく気にしない。
見た目が良くてもケルフィリア教なら憎むべき敵になる。
見た目が良くなくても強い志を持って生きているなら美しいとと思う。
「僕はどうだい?」
「……顔も良いし、剣の腕もある。性格もよろしいし家柄も良し。良い男ですね」
「そ、そうか……」
アリアはど正面からカールソンのことを評価した。
まさかそのまま褒められると思わなかったカールソンは珍しく耳を赤くしてアリアから視線を外した。
アリアは褒めることにも何の躊躇いもないのである。
一時期勘違いから一悶着あったけれど今ではカールソンのことを認めている。
回帰前も含めて出会った人の中でトップクラスの良い男である。
回帰前はカールソンの方が回帰者でケルフィリア教と戦っていたというところもアリアの中ではポイントが高い。
「その……」
「なんですか?」
「アリアは王太子妃適性試験を……受けるのか?」
カールソンは少し憂いを帯びた顔をする。
エランに誘われたことはすでに周知の事実となっているけれどアリアの口から直接王太子妃適性試験を受けるとは聞いたことがない。
アリアには受けないでほしい、という思いがカールソンの中にはあった。
「……まだ悩んでいます」
「…………そうなのか」
アリアならキッパリ受けないと言うと思ったのに予想外の答えにカールソンの胸がズキリと痛んだ。
ジーカーにも怒られたように臆病になりすぎたのかもしれないと今更ながらに後悔する。




