望まぬ再会2
運営に関わることはないけれどアリアも出場するので残っているのだ。
ただ協力はお願いされていた。
どうせ出場してアカデミーに留まるのだし他のアカデミーの人や学園対抗戦を見にきた賓客の案内なんかを手伝ってほしいと言われていた。
面倒なことだとは思うけれど普通にお願いされたので普通に引き受けることにはした。
メインで対応するのは運営に携わる生徒であるのでアリアが出る場面はあまりない。
「久しぶりだね」
「ええ、そうですね」
たまたま来訪が重なったのでアリアも手伝うことになった。
手伝うといってもアリアがやるのは案内係。
アカデミーに来たお客が泊まる部屋まで案内するという単純なお仕事である。
もうアカデミーは勝手を知っている場所なので案内ぐらいなら難しいこともない。
ユレストが会長になった時にアカデミー内部のアクセスの悪さもかなり解消されたので迷うこともない。
ただ案内するお客というのが問題だった。
アカデミーに来るようなお客様は基本的に礼儀正しく、問題など起こさないような人がほとんどである。
たまに偉そうな態度が鼻につく貴族もいるがアリアにとっては笑顔で受け流せばいいだけの話である。
しかしあまり相手したくない人というものもいる。
その一人がゲルダであった。
かつてシェルダンアカデミーで学園対抗戦が行われた時に出会った男性で、当時はまだアカデミーの生徒だったが今はもうすでに卒業しているはずだった。
なのになぜかアリアはまたゲルダと会うことになってしまったのである。
「あなたが親しげに話しかけてくるから案内役を任されてしまいました」
ゲルダの姿を見た時なぜここにと思った。
思い切り嫌な顔をしたアリアに対してゲルダはさわやかな笑みを浮かべて声をかけた。
そのためにゲルダの案内はアリアが引き受けることになってしまったのである。
こいつケルフィリア教かもしれないので関わりたくありませんとは言えるはずもない。
ゲルダは闇のような黒いオーラの持ち主である。
回帰前アリアがエリシアを殺そうとした時に邪魔してくれたのが黒いオーラの男だった。
アリアは顔こそ見ていないもののオーラを間近で感じた。
間違いなくゲルダのオーラであった。
エリシアとの関係性は知らないけれど地下牢に閉じ込められたアリアをエリシアが嘲笑いに来た時もゲルダはエリシアのそばにいた。
つまりケルフィリア教の話をゲルダは聞いていたのだ。
あれだけ堂々とゲルダの前でケルフィリア教のことを口にしたということはゲルダもケルフィリア教の仲間だということは確実。
今がケルフィリア教かどうかは知らないけれど後々脅威となる可能性は高かった。
「つれないなぁ……せっかく再会できたじゃないか?」
アリアはゲルダのことを見もしない。
そんな態度でもゲルダは気を悪くした様子もなく苦笑いを浮かべるだけだった。
「僕と君との仲じゃないか?」
「あなたと親しくなった記憶はありません」
「確かに……親しく話すような仲ではないかもしれない」
「……何をするつもりですか?」
「君が僕を見てくれないから」
ゲルダは案内のために前を歩くアリアの腕を取って振り向かせた。
腕を振り払おうとしたけれどゲルダの力が強い。
無駄に綺麗な顔がアリアのそばに寄る。
また引っ叩いてやろうかと思うけれどさすがお客様ではあるので少しだけ我慢する。
「放してくださらないと叫びますよ?」
「休みのアカデミーに誰かいると?」
「誰かがいたらあなたは女性に暴行を振るったクソ野郎になります」
「僕にそんなつれない態度を取るのは君ぐらいだ」
「だとしたら周りの全員見る目がないのですね」
ゲルダはアリアの腕から手を離して腰に回そうとした。
けれどアリアはゲルダの手首を掴んでそれを阻止する。
「周りの者の見る目がないのか……それとも君の見る目がないのか」
「人気のない場所で女性に迫るような人なら私の見る目の方が正しいでしょうね」
「……普段はこんなことしないさ。君に僕を見てほしかっただけだ。あの時君に叩かれたこと今でも忘れられない」
恨み言か? とアリアは眉を上げる。
「剣の鍛錬で叩かれることはあっても正面から頬を叩かれることなんてなかった。どうしてか、あの痛みを思うと胸が熱くなる」
「医師にご相談されることをおすすめします」
「そんなことじゃないと君も分かっているだろう?」
「頬を叩かれたぐらいで抱く感情など理解できないですね」
ゲルダの目の奥に怪しい光が見える。
少しでも油断すると取って食われてしまいそう、そんな気分にさせられる。
「僕はこれまで欲しいと思ったものを全て手に入れてきた」
「そうですか」
「君が欲しいと言ったらどうする?」
「私はものではございませんから。容易く誰かのものにできると思わないでください。誰かのものにもなるつもりはありません」
これ以上ふざけたことを言ったら本気で殴る。
真っ直ぐに睨みつけるアリアの目を見てゲルダはニヤリと笑った。
「誰かのものになるつもりがないのならそれでいい」
降参するように手を上げながらスッとアリアから離れる。
「ただ、僕は諦めも悪いんだ」
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