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甘える犬に噛み付く犬1

 一年目と二年目でキツくとも授業はしっかり取ってきたので三年目のアリアにはかなり余裕があった。

 ディアブロと戦う師匠ヘカトケイの強さは凄まじく、ああなりたいと憧れの気持ちを持ったアリアは剣を鍛錬し、魔法を習う比重を少し増やして日々を過ごしていた。


「お姉様!」


 必要な授業や単位の取りやすい授業を取りつつも興味がある授業も受けていた。

 そんなアリアの受ける授業にカインが現れる。


 まだ受けられないだろうと思う授業にまでカインはいて、ニコニコとアリアの隣の席に座るのだ。

 めんどくさく絡んでくる輩はカインが追い払ってくれるのだけど授業は大丈夫なのかと思う。


「カイン、あなた自分の授業は大丈夫ですの?」


 一年目だとほとんど基礎系授業ばかりのはずなのにとアリアは心配そうな表情を浮かべる。


「お姉様が優先ですから!」


 カインは笑顔で平然と答える。

 あまりにあっさりと答えるものだからアリアも少し呆然としてしまう。


 実際カインにとってアカデミーなどどうでもいいのだ。

 大事なのはアリアであり、アリアのそばで守ることこそカインの使命であると思っている。


 元々貴族でも何でもないのでアカデミーを落第しようとカインに関係なくアリアのそばに居られればそれでよい。


「カイン……それじゃいけませんわ」


 守ってくれようとすることはありがたい。

 けれど自己を犠牲にしてまで守られてはアリアの方にも負担になってしまう。


 アカデミーで学びを受けて、卒業したという実績を得ることはカインのためになる。


「ですがお姉様……」


「カイン」


 アリアは手を伸ばしてカインの頬に触れる。

 それだけでカインは頬を赤らめて借りてきた猫のように大人しくなってしまう。


「あなたは頭もいいわ。私を守ってくれようとすることはいいですがあなた自身のためになることも考えてほしいですわ」


 アリアに触れられたところが熱を持ったように熱く、カインはアリアの強い意思を秘めた目から視線を外せなくなる。


「でも……カールソン様にも言われて……」


「あなたが従っているのはカールソン? それとも私?」


「もちろんお姉様です!」


「ならしっかりとアカデミーを卒業なさい。何かを学び知識を得ることはあなたのためにもなりますわ」


 しばらくカンバーレンドにいたせいか忘れているなとアリアは思った。

 カインが仕えるべきはカールソンではなく、アリアであるのだと。


「ひょっ……」


 アリアは頬に触れていた手をゆっくりと頭の後ろに回すとカインの頭を引き寄せた。

 まるでキスでもするかのようで横で見ていたトゥージュが驚いて変な声を出す。


 だがアリアは人の前でカインにキスなどしない。

 顔を真っ赤にしたカインの目を覗き込んでアリアはどちらの立場が上なのかを分からせる。


「いい? 私のためになりたいと思うのなら使えるようになりなさい。貪欲に何でも学び、私が頼りたいと思えるような人になりなさい。ただ私のそばにいて身を案じるだけなら犬にだってできますわ」


「は、はい……」


 カイン、パニック。

 視界いっぱいにアリアの顔があってカインは鼻血でも出そうな気分になっている。


「あなたはただの犬じゃなく使える犬になりなさい」


 ただの護衛なら使えない二人組を始めとしていくらでもいる。

 しかしカインに求めるのはそんなくだらないものではない。


 オーラユーザーとしてもっと成長してもらわねばならない。

 強くなるのに知識がいらないなんていう人もいる。


 しかし強くなるのにあって困るものでなければ、あればより強くなれることもある。

 それにカインはあまりにも世の中の広さを知らない。


 親を亡くした平民の子であるので知識がなくても仕方ないのだが今は学べる環境にある。

 知っておくことに損はない。


 どうせなら使える犬になってほしい。

 なかなかひどい言葉であるのだがカインはアリアに期待されていると尻尾を振っている。


「ユーケーンの入会テストも期待していますわよ」


「はい……!」


 アリアがニコリと笑うとカインも顔を綻ばせた。


「なんというか……怪しい関係!」


「やめなよ、パメラぁ……」


 年上のアリアと年下のカインの間には不思議な関係がありそうなことは見ていて分かる。

 アリアの方は相変わらずな感じがしているけれどカインの方どう見てもアリアのことを熱っぽい目で見ている。


 恋愛的な感情もありそうだが尊敬や崇拝といったような感情も見てとれる。

 なんというのか、アリアしか見えていないような危うさがあるなとトゥージュは思う。


 パメラから見るとカールソンはそっぽ向きながらも背中くっつけてくる黒いデカい犬で、カインはベタベタに甘えてくる小さい犬みたいなイメージだった。

 どちらにしても感情はアリアに向いているということに変わりはない。


「自分の授業は?」


「今の時間はないです……」


「本当?」


「ほんとです!」


「……じゃあ信じるわ」


「昼間から良いご身分ですわね?」


 会話も一段落と思ったらアリアに絡んでくる人がいた。

 アカデミーの生活は回帰前に比べたら大成功だと思っているアリアだけど一つだけ失敗したと思うことがある。

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