くだらないパーティー3
「第二王子!」
会場にいたディージャンが騒ぎを聞きつけてアリアの前に出てきた。
「どういうおつもりですか!」
珍しく怒りの表情を浮かべたディージャンは今にもエランに殴りかかりそうになっている。
それもそうだろう。
ディージャンも聞いていない話であり、こんな公の場で王太子妃適性試験の誘いをするなどとんでもないことである。
試験を勝ち抜かねばならないとはいえ王子であるエランから直接王太子妃適性試験の誘いを受けたということは半ば婚約の申し出みたいなものである。
仮にアリアにそのつもりがなくてももはや影響があることは避けられない。
「家柄も良く、見目麗しく、頭も良い。まさしくふさわしい人物だと思わないか? それにあくまでも王太子妃適性試験だ」
エランはディージャンの怒りも涼しい顔で受け流している。
エランの言うことにも一定の理解はある。
アリアに婚約者がいない以上は誰が申し込んだとしても自由ではある。
そもそも王太子妃適性試験は婚約の申込みではなく、参加するしないは本人の意思に任されているとされている。
しかし王族自らに誘われて断れる人がいるだろうか。
たとえ勝ち抜いてエランのパートナーとなるつもりがなくても誘われた以上は参加しなければならない。
そして参加した以上簡単には手を抜けるものでもないのだ。
「あーあぁ……だから言ったのに」
パーティーにはジーカーとデレクも招待されていた。
二人も一応中立派閥の貴族であるからだ。
ディージャンも怖い顔をしているがアリアの後ろにいるカールソンも怖い顔をしていた。
ディージャンはエランに殴りかかりそうだがカールソンはエランを殺すんじゃないかと思うほどである。
前にカンバーレンドで開かれたパーティーでもジーカーは忠告した。
ウダウダしていると誰かがアリアに手を出すぞと。
アリアほどの人を他の人が放っておくはずがないと普段から言っていたけれど、まさかエランがアリアに近づこうとしているなんて思いもしなかった。
「アリアはまだアカデミーも卒業していないのですよ!」
ディージャンはどうにかアリアのことを守ろうとしてくれている。
今空気に流されてしまえば断ることも難しくなる。
ここは決して合意の上ではなく、この場で決まってしまうようなことを避けねばならないと必死になっていた。
「それはそうだな」
アリアはアカデミーをまだ卒業もしていない。
アカデミーを中途半端にしたまま王太子妃適性試験などに参加することはできない。
「ではエルダン嬢が卒業するまで待とう。僕自身にも時間は必要となるし二年後に王太子妃適性試験を取り行うことにする」
一体どういうつもりなのか。
ムカつく笑みを浮かべたエランがこんな作戦を考えたようにはアリアには思えなかった。
また面倒なことになったものだと小さくため息をつく。
「アリア……大丈夫?」
ノラがアリアにこっそりと声をかける。
その瞳には心配と怒りの感情が見て取れた。
「ええ……大丈夫ですわ」
許されるならエランのことをぶん殴ってこの話を終わらせてしまいたいけれど周りの目があるのでそうもできない。
「……僕がどうにかするから」
「ノラ?」
このままエランの好きにはさせない。
ノラの目に決意のようなものが見えてアリアは首を傾げた。
この日から社交界の様子が変わった。
二年後に王太子妃適性試験が行われるということで有力貴族の婚約話は進まなくなり、誰もが王太子妃適性試験に相応しい能力があるのだとアピールするようになった。
そしてエランから直接王太子妃適性試験に誘われたアリアは話題の中心に置かれることになって非常に深いため息をつくことになったのである。