くだらないパーティー2
「第一王子がいてくれたら……」
そう思わずにはいられない。
ただ第一王子は死んだわけではない。
頭も良くて剣の才能もあった第一王子であるが生来病弱で体が弱いという弱点があった。
以前より体調が不安視されていたけれど、とうとう表舞台に出られないぐらいに体が悪くなった。
アリアの知る回帰前では結局回復することなく何年後かに亡くなってしまう。
せめて第一王子が生きていればエランが好き勝手に振る舞うことができずにアリアも少しは楽だったかもしれない。
「しかし成長なさいましたね」
エランの自慢げな口撃をノラは上手くかわしている。
こうしたところでもノラはしっかりしてきていてアリアは感心した。
「アリア!」
エランとの挨拶を終えたノラはアリアのことを見つけた。
先ほどまでの固い作った笑顔と違って柔らかく、周りの令嬢がノラの笑顔に頬を赤くしている。
アリアとノラの距離が近いことも噂されている。
あまり変に関係性を噂されすぎても面倒なのでこうした時にはあまり関わらないようにするか、しても軽く挨拶する程度にすべきだが、ノラにそのつもりはないようだ。
「久しぶりだね。元気にしてた?」
周りの視線など一切気にしないようにアリアに声をかけるノラはエランに対する態度と明らかに違っている。
アリアとしてはエランと会話していた時の鋭さのある印象の方が強かったけれど今回の人生ではあまり知らなかったノラの一面が見れている。
回帰前も悪い関係ではなかったと思うのだけどエランのパートナーだったせいか一線は引かれて、丁寧な態度なことが多かった。
「ノラスティオ様も大きくなられましたね」
公的な場であるので愛称であるノラではなくちゃんとノラスティオと呼んでお淑やかにお辞儀するアリアにノラは少しだけ寂しそうな顔をした。
けれども状況が状況だけに仕方ない。
「アカデミーがない間は何をしていたの?」
「色々と、お友達の家にご招待いただいたりしていましたわ」
「第三王子もお元気そうで」
アリアとノラがにこやかに話しているとカールソンが間に割り込むようにしてノラに挨拶をした。
ノラとカールソンはまだ言葉を交わしていなかった。
それにしてもなぜわざわざ前に出るようにして声をかけるのだろうかとアリアはちょっと疑問に思った。
カールソンの性格なら別にノラと話すことすらしなくても構わなそうなのにかなりしっかりと声をかけた。
「ああ、カールソンさんもお久しぶりです」
ノラの顔がエランに向けたような固い作り物の笑顔になる。
ノラとカールソンの関係はそんなに悪くないはずなのにあまり仲も良くなさそうだ。
「挨拶してくださらないから私のことを忘れたのかと思いました」
「そんなわけないじゃないですか。ただ、今はアリアと話していたから」
火花散るような二人だがアリアはなぜそんなことになっているのか理解していない。
まあ仲良し、と思うほど頭のネジは外れていないが二人がどんな思いを抱いてぶつかり合っているのか察する方面のネジはぶっ飛んでしまっている。
「エルダン嬢、こちらにいらっしゃいましたか」
ノラとカールソンが表面上軽い挨拶でジャブを打ち合い、アリアと話すのは俺だと主張しあっていた。
そこに爽やかな笑顔を浮かべたエランが近づいてきた。
「パーティーは楽しんでくださっていますかな?」
「ええ」
お前がいなきゃ多少は楽しめただろうさ、と思っても口には出さない。
ニコリと笑って挨拶するアリアはノラよりも笑顔が自然に見える。
「一つ……お聞きしたいのですが」
「なんでしょうか?」
「エルダン嬢に決まったパートナーは?」
この場合のパートナーとはダンスなんかのお相手ではなく婚約者はいるかという意味である。
「……いいえ、お恥ずかしながら」
「そうですか」
こんなふうにストレートに聞かれてしまうと誤魔化しようもない。
アリアが苦々しい思いを隠して答えるとエランはニヤリと笑った。
「では……王太子妃適性試験を受けてみるつもりはありませんか?」
エランの話に耳を傾けていた周りの人たちのざわつきが一気に大きくなった。
「それは……つまり……」
「僕のパートナーの候補となってほしいということだ」
王太子妃適性試験とは古くから残る習慣である。
王太子妃、つまりは王子のパートナーとなる人を選ぶための行為であり、事前に選ばれた複数の女性が王城に入って王族としての教育を受けながら互いに競い合って王太子妃の座を奪い合う。
試験とあるようにいくつかのテストが課されてそれを乗り越えていかねばならず、さらには乗り越えて王子に見染められて初めて結ばれることになる。
王族側としては未来の王太子妃としての教育をしながら競争なども乗り越える資質を見られ、なおかつ複数を競わせ勝ち取らせることで王太子妃としての自信もつけさせることができる一石二鳥の試験となる。
回帰前もアリアは王太子妃適性試験に参加してなぜかエランに選ばれた。
後にエリシアと逢瀬を重ねるためのハリボテの王太子妃だったことを知るのだけど一度勝ち抜いてはいるのだ。